第89話 遠い道のり
ボクは、途中でお腹いっぱいになってしまったが、アルはいくらでも食べられそうな気がした。
だから、ボクは食べて味を覚えるのはアルに任せることにしたんだ。
だって、いくらボクが味を覚えても、魔法が使えないんじゃ意味がないものね。
しばらく、ボクはアルの食べっぷりを見て楽しんでいたが、あまりにも退屈だったので、地図を広げてこれからの道を調べていた。
「おや、あんた達は、これから王都へ行くんだったわよね!……どの道を通るか、もう決めてるのかい?」
「それが、よく分からないんですよ!なんせ、初めて行くところばかりなんで…………」
料理を運んで来たおばちゃんが、地図を覗き込み、そんなことを聞いてきた。
「まあ、王都へ行くのは、今はほとんど一本道と言っていいかもね。
昔は、王都へ渡る道は、全ての大陸からあったんだ。だから、どんなにゆっくり行っても、一ヶ月もあれば、楽に王都へ行けたのにさ。
…………あの戦いで、港町が無くなったり、橋が壊されたりして、なかなか王都へは行けなくなってしまったんだ」
「ええ、それは聞きました。今は、西の大陸からしか王都のある島に渡れないとか」
「そうさ。
しかも、この北の大陸からだと、東の大陸、南の大陸、そして西の大陸と順番に進んで行かないとダメなんだ。
この北の大陸からが、一番遠いんだよね」
「おばさんは、道に詳しそうですね!」
「まあね…………こう見えても王都の生まれなのよ!」
「うぐっ、え?……おばさん王都の人なの?」
アルは、驚いて食べていた肉が喉に詰まりそうになった。
「あ、ああ……ま、王都の生まれって言っても、王族でも何でもないよ。
うちの両親が王都で食堂をやっていたんだよ。
…………でもね、あの20年前の“悪魔の1年”で、王都の被害も凄かったのよ。
……うちの食堂も破壊されてね。
…………それで、よやくここまで逃げて来たんだ。
ここで、ようやく食堂を再開してね…………ほら、調理場で料理を作ってるのが、うちの両親だよ。
どうだい、美味いだろ?お嬢ちゃんが覚えている味は、うちの食堂の宝なんだ。だから、大切にしておくれよ!頼んだよ」
「うん、わかった。がんばって覚えるよ!」
「ちょっと、地図を貸してごらん!
…………ほれ、この線にそって道を行くといいよ。
この地図を見せて、次への町について尋ねてごらん。たぶん、詳しい話が聞けると思うよ。
…………町の場所だけ印をつけてあげるから、名前は…………旅をしながら調べてご覧!
きっと、その方が、いろんな人と仲良くなれるだろうからね!」
「ありがとうございます…………じゃあ、次は、この町を目指せばいいんですね!」
「ああ、そうさ!
この町は、大きな山の麓にある町なんだ。山を越えなきゃならないんだけど、その準備なんかもできるから、しっかり町には寄るんだよ!」
「はい、分かりました!」
「おばちゃん、ありがとうね!」
「あんたら、いつこの町を出発するんだね?」
「もう、準備が済んだので、明日の朝にしようかと思ってます」
「そうかい、寂しいね…………まあ、今晩はゆっくりお休みよ」
「はい!」
「センセ、今日は、ちゃんとお風呂に入ってね……」
「ああ、分かってるよ。……アルも、ちゃんと自分のベッドで寝るんだぞ!」
「分かってるよ、もー」
(つづく)
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