第81話 程よい寒さ
まあ、仕方ないか…………ベッドは2つあるようだし、アルを放ってはおけないし……
「ムニュ……ムム……ヒュー……………」
「まったく、気持ち良さそうに……」
ボクは、まず、アルをベッドに放り込んだ。そして、プロテクトアーマーを外し、靴を脱がせてから、薄い寝具を掛けた。
手触りからすると、ボクの世界では羊毛布団のような感じだ。きっと何か獣の毛でも入っているんだろう。
季節はまだそんなに暑いわけでもないので、寝るには丁度よい。
今日は、旅の初日ということもありそんなに距離は歩いていないのだが、初めてのことばかりで、ボクも疲れてしまった。
普通なら夕食を食べてというところだけれど、アルも寝てしまったので、ボクもベッドに入った。
隣のベッドでは、アルが寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。ボクも、すぐに眠りの世界に落ちたようで、アルの寝息など全く感じなくなっていった。
たぶん夜中だと思うが、一度だけ背中が温かく感じたような気がした。その心地よい温かなのかは分からないが、ボクは幸せな気持ちで、目を閉じたまま意識が無くなっていた。
窓から差し込む明るい朝日で、ボクは眠りから呼び戻された。まだ、意識も中途半端なまま、腕を伸ばした後、目を擦りながら、体を起こそうとした。
「あれ?……うっ?……おや?…………体が重い?」
ボクは、ベッドの上で起き上がれず藻掻いていると、不意にものすごく近くで声がした。
「ふぁああ……センセ?……何してる?」
「え?アル?……どこにいる?」
ボクは、声のする方を向こうとするが、体が上手く動かない。慌てて、周りを見回した。
今見える天井は、宿屋の部屋?
窓から、明かりが入っている。朝か?
体が…………ん?……手?誰?
んん?背中に誰かが?
「アル?……アルなのか?」
ボクは、恐る恐る声を掛けてみた。
「あふぁああ、センセ、おはよ!」
背中から、寝ぼけたアルの声がした。
「アル?……そこで、何やっているんだい?」
ボクは、見えないけれど首を捻りながら、静かに声を掛けてみた。
「ああ、センセ…………寝てるのよ……よく眠れたわ」
「ど、どう、いたしまして?…………えっと、ボクは、起きたいんだけど……」
「うん、分かった……」
そう言ってアルは、ボクの背中から胸にまわしている手を放してくれた。
「…………えっと、アルのベッドは…………向こうだったよね?」
「うん、なんかそうみたい……でもね、夜中ちょっと寒くてね…………センセ、温かくて気持ち良かったよ……今晩もくっ付いて寝ようね!」
「う~ん?……あのね、アル?……寒かったら、温かい毛皮かけてあげるからね」
「そっか、そう言えば、家から毛皮もってきたんだったよね!忘れてた!あははは」
まったく、子どもなんだからアルは…………夜はまだ冷えるのかな…………。
(つづく)
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。