第79話 楽しみ?
「ねえ、センセ…………」
「ん?どうかしたかアル?」
一本の狭い道を歩き続けて、どのくらい経った頃だろうか?アルが、不意に話しけてきた。何か忘れ物でもしたか?それとも、急に不安になったか?
ボクは、少しドキドキしながら、聞き返した。
「んー、詰んない!」
「へ?詰んない?」
「だって、なーーーんも無いんだもん!道の両側は、草原ばっかよ!魔物の1匹でも出れば戦えるのに!」
ほんとにこのお嬢様は、いつも呆気らかんとしているんだから。
こんなところで、早々と魔物に出くわしたら、大変じゃないか?今から疲れて、初日が野宿なんて、ごめんだよ~
「アル~、そんな物騒なこと言わないでくれよ!何も無いのが、平和っていって、大切なんだからさ~」
「え~?あたしは、戦いたいなあ~…………少しでもいっぱい戦って、強くなるんだ!そして、王都に着く頃には騎士団の人達より強くなっていたいなあ~」
「ま~た、そんな馬鹿なこと言って!……騎士団の人に怒られるぞ~」
「えへへへ……大丈夫よ。まだまだ、王都は遠いから、聞こえやしないわ!平気平気!」
ボク達は、そんなことを言いながら隣町の“シべト町”を目指した。ボク等のウシュラ村からからは、半日歩けば到着する距離だ。
ボクも、何度かジョンディアに連れられて買い物に来たことがある。
まあ、買い物っていっても、ほとんど物々交換のようなもので、森で捕まえた獣の肉を武器や服などと取り換えてくるんだ。
「センセ、今晩はシベト町に泊まるんだよね!」
「まあ、シベト町は行ったことがあるから、いろいろ買い物もしていこうか?」
「やったー!あたしね、自分の家以外に泊まったことないのよ!初めてだわ、嬉しいなあー」
「あれ?アルは、小さい頃から何度も買い物に付いて来てるんじゃなかったっけ?」
「ううん、そりゃね、買い物には来てるのよ。
でもね、買い物は1日で終わるから、遅くなっても帰ってくるのよ。…………まあ、帰りはお母様の背中で寝てるんだけどね、うふっ!」
「なーんだ、大きな荷物になってたのか、アルらしいや……あはははは」
「もー、笑わないでよ、センセ。今は、そんなこと無いんだからね!」
「そうだなあ~、今、アルに寝られたら、ボクはこの背中の荷物の上にアルを乗せなきゃならいかなら、大変だもんなあ~」
「もーセンセったら、大丈夫だってば!……暗くなったら、眠くなるだけよ」
「おいおい、じゃあ暗くなる前に町に入らないと、すぐに野宿になってしまうんだな~」
「そう言えば、この前吹雪で洞窟に泊まった時も、あんなところで、すぐに寝てたもんな」
「あ、センセ、変なこと思い出さないの!」
「そんなこと言っても、確かこの辺だぞ、洞窟に泊まった場所は…………」
すっかりスヘールも溶けて、見晴らしのいい峠になっているが、あの時はワイトベアーと戦ったりして大変だったなあ。
「ん?アル、何ニヤニヤしながら、キョロキョロしてるんだい?」
「あ、あのね、また、ワイトベアーが出てこないかなあって、思って…………」
「何言ってんだい、あれは寒い季節じゃないと、姿を見せないって言ってたじゃないか」
「えーー?でも、センセ、最近は分かんないよ~ひょっとして…………」
それでも、アルは嬉しそうに魔獣の出現を楽しみにしながら、まだ明るい峠の道を歩いていた。
(つづく)
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