第77話 緊張の朝
「あ、アル!おはようっ!」
「タロウセンセ!…………早起きなのね?」
「そういうアルだって、こんなに早く起きて何をしてるんだい?」
やっと日が昇り、辺りが明るくなったばかりだった。ボクは、我慢しきれなくなって、いつもよりも物凄く早く起きてしまった。
まるで、遠足を楽しみにしている子どものようだと、自分でも可笑しくなったが、たぶんアルも同じだったんだと分かった。
「え~っと、あたしはね、今日の出発の…………あ、荷物の点検よ!」
「ふーん?何言ってんだい、荷物の点検なんか夕べ10回もやったじゃないか!」
「えー?そうだったかな~?…………でもね、でもね、寝ながら考えたの!この間、スヘールの嵐だった時、洞窟に避難したわよね……」
「ああ、そんなこともあったね」
「そうそう……それで、お外で寝なければならないことも多いと思うの」
「うん、それで?」
「そんな時ね、寒くないように暖かくて大きな毛皮があったらいいなあって、思ったの」
「そりゃあ、あったら便利だし、いいかもね」
「だからね…………“これ!”…………お願いセンセ!カバンに入れて!」
アルは、大きな毛皮を広げて見せてくれた。それは、森で捕まえた獣で“マック”と言うのだそうだ。茶色い毛がびっしりと生えていて、身長が人の3倍くらいあった。
毛皮なので、平らに加工してある。
ボクの世界だと“毛布”のような感じだ。
「アル?でも、それは大きすぎないか?包まって寝るにしても、毛皮が余ってしまうだろう?」
「センセ!何言っての!夜は、怖いのよ!これには、二人で包まって寝るの!そうしないと、獣や魔獣に襲われた時、大変でしょ!分かった?」
「ああ、そうか…………じゃあ、持って行こうか……」
アルもよく考えているんだな…………?……え?……二人で包まって寝る?…………そっか、夜は危ないよな…………できれば、野宿はしたくないなあ~………。
そのうちにジョンディアも起きて来た。
「おや?お前達、早いなあ~…………よく眠れたのかな?」
「はあ~ええっと……少し緊張して、早起きしてしまいました」
「あはははは……今からそれじゃ、大変だなあ……ははははは」
ジョンディアには、また高笑いされてしまった。
「ところで、地図はもっているかな?」
「あ、お王様!あたし地図を手に入れるのを忘れてたわ!」
「じゃあ、この地図をもって行くといいぞ……ただな、これはワシが使っていたものだから、少し古いんだ…………例えば、悪魔の1年で破壊された橋や町なども、昔のままに書かれているから気をつけろ………」
そう言って、地図を広げながら、ジョンディアは説明してくれた。
この世界は、4つの大陸と1つの島で出来ている。
大陸は、北・東・南・西に分かれていて、その中央は、大きな海になっているんだけど、真ん中に島があるんだ。その島にお城があって、王様が住んでいるんだ。つまり、その島が王都なんだ。
昔は、この4つの大陸と王都の島は、大きな橋でつながっていたんだ。
でも、そのほとんどが魔獣に破壊されて、現在使えるのは、西の大陸と王都の島を結ぶものだけになってしまった。
ボク達の村は、北の大陸にあった。
この大陸の西の方へ行けば、西の大陸があるのだが、高い山が連なっていて、いつでもスヘールに覆われているので、人間が通るのは無理があった。
「お前達が、王都を目指すには、西の大陸へ渡る必要があるが、今は直接行くのは無理だろう。東へ向かって、順に東の大陸、南の大陸、そして西の大陸というように進むのが、一番確かだと思う」
ボク達は、ジョンディアの地図をもらい、言われた通りに進むことにした。
「さあ、みんな朝ご飯の準備ができたわよ。しっかり食べてから、出発しないね!」
いつもと変わらずハーティは、朝の食事を準備してくれた。もう、次からは自分達で食べ物を手に入れなければならない。
ボクは、ハーティの美味しいスープを飲みながらも、不安が沸き上がってきた。
ところが、隣を見ると、アルがいつもと変わらぬ元気な笑顔で、食事をしていた。
ボクは、そんなアルを見るだけで、心が和らぎ、気持ちが落ち着いてくることに、今更ながら気づいたのだった。
(つづく)
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