第72話 教え
「ねえ、お父様?あんなにいっぱいソリに積んで、何を買って来たの?」
その日、家に帰って夕食を食べながら、アルが不思議そうに尋ねた。
「ん?あれか?……もうすぐ新しい年になるだろ。そのためのいろいろな準備だ」
この世界も新しい年になれば、お祝いする習慣があるようだった。そう言えば去年、たくさんのご馳走を食べたり、新しい服をもらったりしたことを思い出した。
「それにね、もうすぐアルの誕生日でしょ!……ついでにその時の準備もして来ちゃった!」
ハーティが、笑顔で付け足した。
「でも…………そんなに買い物するためには、たくさんのお金がかかったんじゃないの?」
アルが心配そうに尋ねると、ジョンディアは、笑いながらボクの手を握った。
「あはははは……これはな、タロウ先生のお陰なんじゃ!……ありがとう!ありがとう!」
「え?……ボクは、何もしてませんよ?」
「確かに、先生が直接に関係していた訳じゃないんだが、先生とアルが森で稽古をしてたじゃろ?」
「確かに、ボク達は、森で稽古をしてましたが……」
「そ、それじゃ!
……スヘールが降る前に先生とアルは、あの森の魔物を全部やっつけてしまったんじゃねーー。だから、いくら森の奥へ行っても、もう魔物は出なくなったんだよ」
「そう言えば、確かにそうです」
「だから、スヘールが降ってもワシや村の者達は、安心して森へ狩りに行けたんじゃ。
そして、いろいろな動物を狩ることができた。
動物は、魔物と違って倒しても無くなったりしないんじゃ。だから、肉や毛皮は、ワシらの生活に役立っていたんだなあ」
「分かったわ!お父様!
森で稽古を続けたのは、タロウセンセの考え方なの。同じ森でも、季節によって戦い方が違ってくるからって、スヘールが降っても森で稽古を続けた方がいいって、センセは言ってた!
……だから、センセのお陰なのね!」
「そうじゃ。そして、特にスヘールが降ってからは、狩った動物の肉は、スヘールに埋めておけば凍ったまま保存ができたんじゃ…………これがな、町にもっていくと、たいそういい値段で売れたんだ。金貨だって、たくさんもらえたんだぞ」
「そうだったのね……今、思い返すと、あたし達が森で稽古をしていると、お父様や村の人が、森の中に入って来るのを何度か見たわ」
「そうか、みんなは、ボク達が稽古をしているから、逆に安心して狩りに専念できたんだ!」
「まあ、そういう訳だから、今回の買い物は、全部タロウ先生とアルのお陰なんだ!」
「ふーん…………でも、良かった!
……………知らなかったとはいえ、お父様、お母様…………ごめんなさい……」
「え?何?……アルちゃんは、何を謝ってるの?」
ハーティは、不思議そうに聞いてきた。
「だって、このスヘールの中、あたしはセンセも巻き込んで、お父様やお母様を迎えに行ったのよ。一歩間違えば、ワイトベアーにやられるところだったの…………」
「後悔しているのかい?」
ジョンディアが、優しく尋ねると、アルは思いっきり首を横に振って言った。
「そんなことは無いの!あたしは、お父様達が心配だったの!どうしても、じっとしていられなかったの!」
「アル?…………それなら、いいじゃないか!
……自分の判断に自信を持ちなさい!
…………今回のことだって、アルが来てくれなかったら、ワシ達がワイトベアーにやられていたんだぞ。
…………いいか、アル!
自分の判断を大切にしなさい。
誰が何と言おうと、判断をするのは、自分なんだから。
自信をもってやりなさい!」
ジョンディアの言葉に、ハーティも優しい笑顔で頷いていた。
(つづく)
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