第71話 教え子
「「……ああ・うん……」」
ボク達の気持ちは、同じだった。アルは、涙を浮かべて笑顔になった。
「あたしね、だいぶ強くはなったのよ!
……でもね、でもね……強くなればなるほど、心細くなるの。今日だって、センセが居なかったら、とっくにあたしは倒されていたわ」
「それは、まだまだアルが途中だからだよ」
「途中?」
「そうさ、剣の使い手になるための途中……
ヤミューの達人になるための途中……
王都騎士団になるための途中……
魔獣退治の専門家になるための途中……
それに何よりも“立派なアルティシア=キャンディス”になるための途中じゃないか……
これからいっぱい経験を積み重ねて一人前になればいんだ……だから、今はみんなに頼ってくれていいんだ……
ボクに頼ってくれていいんだからね!」
「ホント?センセ?いいの?」
「もちろんさ!」
ボクは、正式にアルが教え子の一人になったと感じた。
安心したのか、アルはまた目をつぶって安らかな表情になった。手はボクの腕にまわしたままだが、幾分か力が抜けて、ボクの腕も安心できたような気がした。
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次の日は、思いのほか晴天になった。洞窟の中にも朝日が入り込み、すがすがしい気分で目覚めることができた。
いつの間にか、ボクも眠ってしまったようだ。
ヤミューの焚火も、すっかり燃え切って炎はもう無かった。
「アル!アル!朝だよ……外へ出てみるよ!」
「う、うう~ん!……あ……おはよ、センセ!」
大きく伸びをしたアルは、ようやくボクの腕を解放してくれた。
そして、2人で外へ出てみて驚いた!
「あれ?……アルじゃないの?……どうして、こんなところにいるの?」
ボク達の洞窟から、少し離れたところで、ハーティが叫んでいた。
「おや?アル?
…………おお、タロウ先生も、一緒じゃないか?迎えに来てくれたのかなあ?」
そんなトボケタことを言ったのは、ジョンディアだった。二人とも、ボク達を見てとても驚いたようだった。
何でも、ジョンディアとハーティは、町で買い物をしてソリに載せたのはよかったのだが、この山を越える時に吹雪に巻き込まれ、ボク達と同じような洞窟に避難したのだそうだ。
ただ、その洞窟の前で、大きなワイトベアーに襲われそうになったというのだ。
「いやあーー荷物が多かったので、わしの剣をソリに積んだのは良かったんじゃが、荷物の下敷きになって取り出せなかったんじゃ。あのまま、襲われていたら、大変なことになってたなあ…………ところが、奴は途中で居なくなったんじゃよ。どうしてなのか、分からんが、不思議なこともあるもんだ」
実は、そのワイトベアーを退治したのはアルで、自分達も洞窟に一晩避難していたことを話すと、ジョンディアとハーティは、これまた大いに驚いた。
「不思議なこともあるもんじゃなー。アルが、助けに来てくれたようなもんだ……あはははははは」
いつものように、ジョンディアは腹の底から笑ってくれた。そして、何度もお礼を言われた。
そして、みんなで買い物を積んだソリを引っ張りながら、眩しい太陽の光を反射する雪道を家に向かって帰ったのだった。
(つづく)
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