第69話 緊急避難
「………………民家も小屋も何もないわよ!……何も見えないから、引き返すこともできないわ!」
「う、うう…………………」
「センセ、どうしたの?……また、敵?」
ボクは、また頭痛に襲われた。先ほどよりは痛みはないが、やはり目眩がする。
「あ、ああ……大丈夫だ」
「センセ、あたしに掴まって」
ボクは、アルの支えられるように肩を貸してもらって、ようやく立っていられるくらいだった。それでもボクは、片手で側頭部を押さえながら、周りを見て警戒した。
「ん?……あれはなんだ?…………アル、前方100モルテル先、何か光っているぞ!あれは、青い光だ!」
「センセ、あたしには何も見えないわ…………でも、行ってみましょう!」
アルは、ボクを支えながら、真っすぐ前に進んでいった。
「アル!ここだ。この左側のスヘールが光っているんだ!」
「センセ、青い光なのよね!……今までのことから、青の光は安全なのよ!きっと、大丈夫!」
そう言って、アルはボクを支えながら、片手でスヘールの壁を手当たり次第に探り出した。すぐに、アルの右手は、壁のようになっているスヘールに吸い込まれるように中に入ってしまった。
そして、右手だけでなく、アルの体やボクまで、そのスヘールに吸い込まれてしまった。
スヘールはとても柔らかく踏ん張りがきかなかったので、2人ともそこで前のめりに倒れてしまった。
「うわあああーー……………ふっーう!」
「センセ!……助かったわ、あたし達は助かったのよ!」
ボク達が転がって倒れたスヘールは、ただの薄い壁だったのだ。その奥には、真っ暗な洞窟があったのだ。スヘールは、この吹雪で洞窟を塞ぐ本当に軽い壁になっていたのである。
洞窟の中は結構な広さがあった。手探りで奥の方も調べてみたが、生憎行き止まりだった。
それでも、風が吹き込まないぐらいは、奥に入れたし、寒さも凌ぐことができた。
「センセ、これ燃やしてみようか?」
「え?これヤミューの“矢”じゃないか!こんなものが、燃えるのか?」
「うーん?だって、これ元々は、植物のガマーラでしょ。それをお母様の魔法で硬くしただけよ…………丈夫になった分だけ、火が長持ちするかも!」
「じゃあ、何本か合わせて火を付けてみようか?」
アルが、武器として携帯してきた“ヤミュー”が役に立つかもしれない。火は、特別な石をぶつけあって火花を飛ばすのだ。ボクの世界で、大昔行われていた方法をこちらの世界では今も使っているんだ。
矢の部分になっているガマーラの先端部は、もともと繁殖のための種が詰まった種子袋になっている。植物状態の時は、その種子袋が火花受けとして用いられるくらい火付きがいいんだ。
ボクが打った石の火花は、すぐにガマーラの種子袋の部分に着火した。すぐに、真っ赤な炎が上がって燃えだした。重ねた、何本かのガマーラにも炎が移り、明るさと暖かさが増してきた。
「センセ、ほら、やっぱりガマーラの種子袋は燃えるけど、なかなか無くならないわ!しばらくは、このまま燃え続けるんじゃないかしら」
「そっか、良かった…………ガマーラも大分もってきたから、少しは炎を維持できるかな……」
炎で明るくなった洞窟をよく見ると、天井から氷の氷柱が何本もぶら下がっていたし、岩を削ったような壁からは、見たことも無いような植物が緑の葉を生やしていた。
「センセ、こんなに寒いのに、何か生えてるよ!」
「そうだな……なんなんだ、これは?……ひょっとして、危ないものかもしれなから、触るんじゃないぞ!」
「ねえ、センセ。これは、光ってみえる?」
「う、うーん?……今は、何も光ってはみえないなあ」
「じゃあ、大じょいうぶよ、きっと。危ない物なら、センセは分かるんだから、ね!」
「そ、そんなことは、分からないぞ。さっきは、たまたまだったかもしれないじゃないか」
すっかりアルは、ボクの見える力を信じている。
“分析眼”は、ボクの能力なんだろうか?目がそうなったのか?ボク自信が、そうなったのか?いつでも、見えるのか?本当に危険になったら見えるのか?
何も分からないんだ。
それでも、“何かが見る時”は、頭が痛くなることが何となく分かってきた。
「センセ、体はもう大丈夫?」
アルは、ボクの横に腰を降ろしている。洞窟の中は暗いが、焚火はまだ変わらずに燃えている。ガマーラも灰になったりせず、そのままの形で炎を出し続けている。
ボクとアルは、炎の傍に陣取り、今晩はここで夜を明かすことに決めた。
「センセ、もっと引っ付いてもいい?」
アルは、心細そうに、そう言いながらも、すでにボクの腕に縋り付いてきた。
「ああ、ボクの頭痛は無くなったよ。もう大丈夫だから」
「……う、ううん……でもね、またセンセの頭が痛くなったら困るから、あたしが傍で見ていてあげるから、心配しないでね(^_~)!」
そう言って、益々ボクにくっ付いてきた。
「あれー?アル、ひょっとして怖いのかい?」
「えー?そ、そんなこと、ないもん!あたしは、センセが心配なだけなの!」
アルは、益々ボクの腕に自分の両腕を巻き付けて、強くくっ付いてきた。
(つづく)
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。