第65話 すべてが冷えてきて
「センセ、今日は無理ね……お休みにしましょう」
アルは、朝食を食べた後、窓の外を眺めながら、呟くように言った。外は、真っ白なのだ。
ジョンディアとハーティは、昨日から町へ買い物に出かけた。でも、この天気なら2,3日は帰って来られないだろう。
また、寒い季節になった。毎日のように“スヘール”が降り、もう2モルテルぐらいの深さになった。降り積もったスヘールの中を歩こうとすれば、あっという間に体半分くらいは埋まってしまう。
町へ買い物に行くのも、2日がかりぐらいになり、大変なものになる。
硬くなったスヘールの上を歩けるのは、もう少し先のことだ。夜は寒いが、日中が暖かくならなければ、スヘールは溶けないし、溶けなければ固まってくれない。
「そうだね、今日は吹雪だから、外へ出るのはやめた方がいいな」
「え?何、センセ?……“フブキ”って?……」
「あ、うん……ボクの国の言葉さ。
スヘールが風に飛ばされながら降ってくるんだ。
巻き込まれたら、周りが真っ白になって、何も見えなくなるんだ。
そして、それだけじゃないんだ。とっても寒くて、そんな吹雪の中にいたら、あっという間に体が凍って死んでしまう。
これは、魔獣じゃないけど、恐ろしい敵なんだ」
「えっと……センセでも、“フブキ”と戦う方法は、分からないの?」
「そうだな…………ただ、生き延びる方法なら分かるけど、戦い方は分からないよ」
「へー、そんな強い敵がいるんだ!……あたし、戦ってみたいなあ~」
アルは、窓際へ歩いて行き、傍にあった椅子に腰かけた。
「そんなぁ~アル、無理に戦うことは無いよ。吹雪は、戦うもんじゃなくて、やり過ごすものだからね。…………放っておけば、必ず居なくなってくれるんだ。時間は、かかるけどね」
ボクは、窓の外を覗いているアルの背中に向かって話した。
「うーーーん…………あたし、待てるかな~………」
「ああ、待てるさー。ゆっくり、待てばいいんだ」
「ねえ、センセ…………このスヘールが固まり出したらさ…………また、温かい季節になるのよね」
「そうだね……」
「そしたら、あたしの誕生日が来るんだ…………16歳の……」
アルは、不安なのか、だんだんと声の調子が低くなっていった。
「…………………」
ボクには、かける言葉が見つからなかった。
「もうすぐだね…………ゆっくりは、できないよね……早く準備しないと……」
「……アル、焦らなくていいと思うよ。ボクだって、準備を手伝うからさ」
「ねえ、タロウセンセ…………手伝ってくれるのは準備だけ?」
アルは、窓の外を眺めながら、ボクの方は見ずに、まるで独り言のように呟いた。何となく、その声は凍えているように、ボクは感じてしまった。
(つづく)
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。