第58話 先制の一撃
「アル!止まってーーーーー!」
「……はああぁ…………はああぁぁぁ…………スーウ、ハーーハーー……」
「疲れただろうアル!……もう大丈夫だ。ボクを降ろしてくれないか?」
「……はー、はー、………うん!センセ……来たね!森の割れ目ね!ここは、大きな湖があって、ちょうど木が生えていない場所だもんね!」
アルは、上手いこと言うな~“森の割れ目”か。丁度ここだけは、木が生えていないから、空がよく見えるんだ。
すぐ近くには森の木が聳え立っていて、隠れるには持って来いだ。
湖の畔までは、森の木々を抜けてから100メートルほどある。
あ、アルの世界の単位で言うなら、100モルテルだそうだ。
この間は、木も無いし草も生えていない。ちょうど整地する前の学校のグラウンドのようになっている。
デコボコした窪みはあるものの、見通しがよく、アルの足ならきっと素早く走れると思う。
でも、なぜここだけ草が生えていないんだろう?湖の近くだから、地面も少し湿っていて、植物が育つには絶好の環境だと思うんだけど…………。
「センセ!一気にやる?」
「いや、待てアル!……チャンスを狙うんだ……奴は、必ず降りて来る……」
木の影から、上空を旋回するロプロテスを観察した。
「センセ!いつまで待つの?……あたし、お腹空いて来ちゃった……」
「え?アル……今、そんなこと言ってる場合じゃないぞ!」
眠気がとれたのか、アルはいつもの調子で、能天気なことを言い出した。
「センセ、あのロプロテスに乗ってみたいね~空を自由に飛べたら、とっても楽しいだろうなあ~」
「えええ?アル~……これから、奴と戦うんだぞ~大丈夫なのか~」
ボクは、少し心配になってきた。戦うと言っても、ボクは何も出来ないし、すべてはアルに掛かっているんだ。
ボクは、ここで作戦を確認した。
「いいか、アル。きっと奴は、下に降りて来る。そこを狙うんだ」
「分かってるよ、センセ。まず、ヤミューで翼を狙うんだろ!」
「そうだ!ボクが見た限り、奴の体はとても丈夫だ、でも、翼だけは濃い青色に光って見えるんだ。きっと、青はボク達にとって安全だという印なんだ」
「そうだよね、センセはこの間から、敵の弱点が分かるんだもんね!凄いよ、センセの目は……」
そう、この間ヒマグーと戦った時だった。自分達が戦おうとしている相手の体が、部分的に光って見えるんだ。
たぶん、その光の色で、敵の弱点が分かるような気がする。
今回の相手は、ロプロテス。ボクが見た感じ、やつは翼が弱点なんだ!
ヒューーーウーーーー……ヒューーーウーーーー………
「アル!ヤミューを準備するんだ!奴が、降りて来るぞ!」
「うん、センセ!」
アルは、矢を詰め込んだ筒を背中にまわし、肩と腰に繋いだ紐を結んだ。そして、左手で、ヤミューを持ち、右手でガマーラの矢を1本、ヤミューに当てがって弦を引く準備を始めた。
バサバサバサ……バッサバッサ……ヒューウー…………
ロプロテスが3羽とも、地面に降りたった。奴の体は、ボク達の3倍はあるし、片方の翼だけでも体の2倍はあった。
ロプロテスは、湖の近くまで歩いて、水を飲み始めた。
「そうか、ここはロプロテスの水飲み場なんだ。だから、湖の畔は木が生えていないんだ」
「え?センセ、木が生えてると水が飲めないの?」
「いや、そうじゃないんだ。湖の近くまで木が生えてると、奴らはここに降りて来られないんだ」
「そっか、木が邪魔なのね…………そんなに木が邪魔なら、湖の周りの木を破壊すればいいんじゃない?」
「んー、アルはロプロテスと同じようなことを考えるんだなあ~」
「ええ?あたしが、ロプロテスに似てるって言うの?
センセー、ひっどーーいー……ぷっぅー」
「まあ、そんなに怒るなよ!……だって、見ろよここ!……ロプロテスは木が邪魔で、燃やしちゃったんだよ!……きっと、あの口から噴き出す火炎弾でな」
「うへえーー!だから、この辺、草が生えてないのね!」
キュウエーーー……シュシュシュ……キュウウエーー………
「よし、アル、奴らが、飛び立つ瞬間を狙え!いいか、そろそろだぞ!」
「うん、センセ……」
奴らが、腹いっぱい水を飲み、今、飛び立とうとして翼を広げた。
「今だ!アル!……翼を狙え!」
シュシュシュシュシュルルルルルルルルル……………スッパアアアン!
「よし!抜けたぞ!……他の2羽も狙え!」
シュシュシュシュシュルルルルルルルルル……………スッパアアアン!
シュシュシュシュシュルルルルルルルルル……………スッパアアアン!
「やったー!いいぞアル!」
「センセ、凄いよこのヤミューの“ヤ”……どんなものでも突き破れそうだよ!」
ボクは、少しでも矢に破壊力を持たせようと、硬くなってからの矢を少し改良したんだ。ガマーラの先に付いている円柱状の塊を尖った鋭い矢先に削ったんだ。
お陰で、ロプロテスの羽をいとも簡単に突き通り、羽を破いてしまったんだ。
これで、幾ら羽をバタつかせても、ロプロテスは飛べなくなったんだ。
でも、奴らは飛べないせいで、怒りを露わにし、羽をバタつかせながら、こちらに迫ってきた。しかも、ボク等を見つけるや大きな口を開けて、力を込め始めた。
「まずいアル、逃げろーーー!」
(つづく)
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。