第6話 記憶の欠片 1
ボクは、山口太郎、22歳。
この春、地元の教育大学を卒業して、私立虹ヶ丘幼稚園に勤めた。いたって平凡な男だ。
ボクは、子どもと遊ぶのが大好きなだけで、幼稚園の先生という職業を選んだ。
確かに、子どもには評判が良かったのだが………。
「山口先生!今日の日案は、これだけですか?」
勤めて3か月目になるが、今朝も園長から小言を言われている。
「はあ……今日はこんなもんかと……」
幼稚園の一日の活動は、毎日の日案の計画で進められる。日案は、年間の活動計画をもとに、月の行事予定や毎週の活動計画を調整しながら、日々先生達が作成していくのである。
ボクは、年長組の担任だが、3クラスに分かれているので、後2人の先生がいる。いずれもベテランの先生で、しかも女性だ。
女性のベテランと言っても、幼稚園では20代後半といったところだ。
大抵は、30歳前に、退職してしまうことが多い。結婚のため、専業主婦になるか、もっと他に時間の自由が利く仕事に転職してしまう。
だから、僕とだってそんなに年齢は離れていないからなのか、すぐ比較されてしまう。
「これじゃあ、子ども達の活動に偏りが出てしまいますよ!他の先生達のように、工作や音楽ともバランスよく体験させられるような活動を組まないと。
…………山口先生の日案は、いつも外遊びばかりなんですから、少しは考えてくださいよ!」
ボクは、事務仕事は苦手だった。ただ、運動が得意で、外で遊ぶのが好きだったのだ。
その日は、梅雨の時期だったが、丁度雲が晴れ、日差しが戻っていた。ボクは、迷うことなく外遊びを計画したのだったが、園長には文句を言われてしまった。
「タロウセンセ!そと、いこうよ!……そとでアソボ!」
「シーソーやろうよ!」
「ジャングルジムにのぼろ!」
「あ、ああ、分かったよ。じゃあ、早速朝一は、外遊びだーー!!」
ちらっと園長を気にしつつも、ボクは子ども達を連れて、園庭へ向かった。久しぶりの太陽は眩しかった。
地面はまだ少し雨水が溜まったところはあったが、心地よい風も吹き、遊具は乾いて居て使える状態だった。
「よーし、ジャングルジム鬼ごっこをやるぞーー!」
「「……「「わーーーい!」」……」」
ボクのクラス、年長さくら組の子ども達は、嬉しそうに外へ飛び出して行った。
(つづく)
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