第55話 思わぬご馳走
「うわあーー、また来た!うわあああーーーーーーー」
シュシュシュシュウウウウウウウーーーーーーーバスッ!
「センセーーー!早く――こっち、こっち!」
「アル?……アルティシア?……どうして?」
今、まさに烏に襲われそうになった時、1本の矢が飛んで来て烏に刺さった。
矢が刺さったまま烏は地面に落ちたが、それを合図に他の烏のけたたましさが増したような気がした。
ファアファアファアーー……ファアファアファアーー……ファアファアファアーー……
「センセ!いっくよーーー!ソレ!ソレ!ソレ!」
アルは、烏に向かって矢継ぎ早に“ヤミュー”を放った。
アルの放った矢は、もちろんガマーラだ。
勢いよく真っすぐに飛んで、烏の胸元を射抜いていく。
すべて命中!一撃必殺だった。
「フー……何とか全部仕留めたわね!
センセ、大丈夫だった?“ブラッキー”に狙われるなんて、危なかったわよ!うふっ!」
アルは、何となく笑顔を見せ、嬉しそうにしていた。
「アル、助けてくれてありがとう!……あれは、魔獣?……いや魔鳥なのか?」
「センセ~、魔鳥な訳ないわよ~……ほら、見てセンセ!……ヤミューが刺さっても消えてないでしょ!」
そう言えば、今までの魔獣は、やっつけると跡形もなく消えていたな。
「じゃあ、あれはいったい何なんだ?」
「えっとね、あれは“ブラッキー”って言う…………普通の鳥?……なの」
「え?普通の鳥?魔鳥じゃない?………」
そうだ、この世界にも動物は居たんだ。
だから、時々食事で肉が出されることがあった。つまり、ボクの世界でいう鳥獣なんだ。
「え?え?……じゃあ、何でボクが、襲われたの?」
「多分だけど、センセが巣に近づいたんだと思う…………それでブラッキーは威嚇して来たのよ」
「巣?…………ひょっとして、あの木かな?
ボクが、あの木の傍に行ったとたんに、襲われたんだ」
「そうかもね!……たぶん、あの木に巣があったのよ」
「ところで、アル?
……何さっきからニコニコしてるんだ?
……ボクが、ブラッキーに襲われて、逃げてるのが面白かったのか?」
「あーー、違う違う!
……センセ!怒った?怒った?……だから、さっきからちょっと怖い顔してんだ―。
……あははははは……違うってばーー」
「おーいアル?じゃあ、教えてくれよ!……何が嬉しいんだよ~?」
ボクは、アルに嫌われたのかと思ってドキドキしたが、そうでは無いようだった。
あんな烏に襲われて、情けないセンセだと思われたんじゃなくて、少しほっとしたが………。
「あのねセンセ、このブラッキーって、とーっても美味しいの!!」
「えええ?食べるのか?」
「このブラッキーはね、肉が柔らかくて焼くといい匂いがするのよね~。
この間も食べたじゃない!」
「え?ボクが食べた?……いつ食べたっけ?」
確かにボクは、この世界に来てから何回か肉を食べたが…………
「この間のあたしの誕生日よ!お母様が奮発して、お肉を買って来てくれたの!」
「ああー、あの肉か!
……本当にあれは美味かったな!
ヤケに高級なステーキを食べさせてくれるんだと思ったんだ!」
「でもね、ブラッキーって空を飛ぶでしょ!なかなか捕まえられないのよ!
仕方ないから、町で買って来るんだけど、罠を仕掛けて捕まえるからそんなに数は無いのよね!」
「へえええー、そうなんだ」
「うへっ……ズズズウー……あのお肉がこんなに手に入ったのよ……あたし、涎が出ちゃう!」
ん?今までは、そんなに捕まえられなかった?……空を飛んでいたから?………
「なあアル?
……お前、凄いじゃないか!
……このブラッキーを一人で射止めたんだぞ!よく狙えたな~」
「あ?
ああーあはははははは!
……そう言えばそうかなあ~
……何か、センセが襲われるって思って、夢中でヤミューを使っちゃった!えへへへ…」
「凄いぞ!凄いぞ!今晩は、ご馳走だな!
ガマーラもいっぱい穫れたし、さあ帰るとしようか!」
「うん!」
日も傾きかけて、影も長く伸びてきた。帰り道、アルの影は、一際大きくなったような気がした。
(つづく)
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