第54話 危機一羽発(ききいっぱつ)!
ヒューーン バン! ヒューーーン バン! ピューン バン!
「いいぞ!アル……凄い命中率だ!」
「ふっ、まあまあね!☺……センセ、それにしてもこの“ヤ?”って、凄いわ!全部、同じ方向に飛ぶのよ!後は、あたしがどれだけ頑張れるかなの!!」
ハーティのお陰で、完璧な矢が手に入った。ガマーラに魔法をかけてもらって、ある程度の硬さになった茎は、真っすぐで、飛ぶ時のブレも少なくなった。
後は、腕を磨くだけだと、アルのやる気も倍増した。
本当にアルは、真面目で頑張り屋なんだ。ガマーラの矢を使えるようになっただけで、最初の何倍も精度が上がったんだから、それで満足しても良さそうなものなのに、本人はまだまだ頑張るつもりでいる。
よーし、ボクだって、できることで助けて行こう!
「アル、ボクはガマーラを採取してくるから、君はここで稽古を続けていてくれ、いいね」
「え?センセ、一人で行くの?大丈夫?」
「大丈夫さ、ガマーラは近くの草原にたくさん生えている」
ハーティによれば、“ガマーラ”はこの世界のどこにでも生育していて、温かい季節になると3日で子どもぐらいの丈になるそうだ。
その後は、寒くなるまで枯れないのだ。一度採取した場所でも、種をまいておけば、また3日で成長するんだ。種は、ガマーラの頭の所、毛虫のようなモジャモジャになっている部分を手で揉み解すと出てくるんだ。
なんて生命力が強い植物なんだ。…………これで、ボクが強化魔法でも使えたら、ヤミューの矢には困らないんだけどなあ~
今は、全部ハーティに魔法をかけてもらってるんだ。
少しでも、ガマーラを集めて、ハーティにたくさん矢を作っておいてもらえば、アルもいっぱい稽古ができるし、いざという時に役に立つんだ。
「分かったわ、センセ、気を付けてね!」
「ああー、任せとけ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とは言ったものの……この辺は、昨日採取したばかりで、まだ背の低いのしか無いな~。
「よし、少し林の方まで行ってみるか!」
ガマーラは、どこにでも生えているとは言ったが、纏まって生えている場所は決まっている。湿気の多い沼地や他の草も多い草原、それに森や林の出入り口付近なんだ。
ガマーラは、湿気を好むが、太陽の光がなければ成長しない。だからと言って、一日中日光を浴びれば、乾いて枯れてしまうんだ。沼地が一番多く生えているんだけど、ぬかるんでいるのでボクじゃ採りに行けないんだ。
「あ!あった、あった。この林の木が適度な日陰を作ってくれるんだなあ~よーし、たくさん採るぞー」
ボクは、夢中でガマーラを刈り取り、持ってきた大きな背負いカゴに入れた。
パサ、パサ、パサ……パサ、パサ、パサ……パサ、パサ、パサ……
ファアアアアアーー……ファアアアアアーー……ファアアアアアアーー……
「ん!何だ?」
急に、頭の上の方で、妙な物音がしたと思ったら、ケタタマシイ泣き声がした。
上を見上げると、近くの高い木にたくさんの何かが留まっていた。
ヒューーーン……ヒューーーン……
そのうちのいくつかが、ボク目掛けて飛んで来た。
慌てて身をかがめ、それをやり過ごしたが、すぐにまた違うやつが、飛んで来た。
体全体が真っ黒で、嘴が尖っていた。大きさといい、姿といい、まるで烏だ!この世界にも烏が居たのか?
ボクは、烏の集団に目を付けられてしまったようだ。
ここは草原の端の林の入り口だ。林の中は高い木があるが、その中にはきっともっとたくさんの烏が居そうな気がした。
かといって、草原の中では、隠れる場所がない。家まで戻ろうにも、途中で追いつかれて、あの嘴でつつかれてしまうろう!だって、奴らは空を自由に飛べるんだから。
「あ!そうか!……奴らは、あの魔鳥ロプロテスと同じなんだ!」
ボクは、焦った。ボクでは勝ち目はない。いかに、ロプロテスよりは小さくて、炎も吐かないとはいえ、直接攻撃されたら、一溜りもない。
「うわあーー、また来た!」
一羽の烏が、ボク目掛けて木の天辺から真っすぐに向かって来た。羽ばたきもせず、ものすごいスピードで迫って来た。
「うわあああーーーーーーー」
(つづく)
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