第52話 “ヤミュー”の完成
「まあ~素敵な“ヤミュー”なのね!」
ハーティは、嬉しそうにボクが使った弓矢を褒めてくれた。そして、快く強化魔法を掛けることに同意した。
「本当によくできてるわ……特にこの“糸”のところ、上手よ!」
ハーティは、弓の弦を何度も触りながら、引き具合を確かめていた。そして、何か閃いたようにニコニコしながら、ヤミューとボクの顔を見比べた。
「ねえ、タロウ先生、このヤミューに強化魔法を掛ける前に、ちょっとだけ試してもらえないかしら?」
そして、ハーティは、家の奥へ行って何やら細い糸のようなものを持って来た。
「タロウ先生は、この糸を編んで少し太い綱を作れないかしら?」
見ると、それは髪の毛ぐらいの太さで、ものすごい長さの透明な糸だった。
「え?この糸を編んで、どうするんですか?」
「うーん、まあ、やってみてからね!」
いたずらっ子ぽく笑うハーティだったが、何か秘策があるのだろうと思い、ボクは言われた通り、その細い糸を数本束ねて、綱を作った。
「そう、そう…………このくらいよね…………タロウ先生、この綱をヤミューに結び付けて見てくれる?」
「あ!これを、弦にするんですね!」
「ゲン?……ゲンって言うの?……」
「はい……………………こんな感じですか?」
「いいわね~……じゃあ、ちょっと魔法を掛ける前に、一度ヤミューを飛ばしてみてもらえる?」
「分かったわ、お母様!……あたしがやってみる!」
ニコニコしているアルの表情からも、早くこのヤミューを使いたい気持ちが溢れているのが分かった。
ヤミューを手にしたアルは、一瞬で真剣な表情になり、新しく張った弦を思いっきり引っ張り、矢を弦に引っかけて、飛ばした。
シュルウウウウウウウウウウウウーーーーーーー
「うわーーーーー!凄いわ!先生!」
矢の行方を目で追いながら、アルは飛び上がって喜んだ。
「おおおおおお!………今までの3倍は速いし、遠くへ飛んだな!」
「いいわね~やっぱり、これね!……タロウ先生に、この余った糸をあげるから、たくさんお作りなさい」
「ありがとうございます!……これは、いったい何なんですか?」
「これはね、“タランテイラ”という魔獣が吐き出す糸なの。細い割には丈夫で、よく伸びるのよね。エルフは、この糸で服を作ったりしていたの。でも、最近はタランテイラも凶暴になって、なかなか糸を手に入れられなかったんだけど、まだこれだけ残っていたのよ。すべてあげるから、好きに使って頂戴」
「ハーティさん、ありがとうございます。大切に使います」
その後、弓矢に強化魔法を掛けてもらうと、威力は10倍以上に跳ね上がり、とても強力な武器になった。
ただ、威力が増した分、少し扱うのが面倒になったようで、アルは思うような方向に飛ばせなくなってしまった。
「……大丈夫よ、センセ。こんな強力な武器なんだもん。これで、絶対ロプロテスをやっつけるわ!…………頑張って練習するから、みんなも付き合ってね!」
傍で見ていたジルとメルも、笑顔でうなずき、アルのヤミュー練習に付き合ってくれた。
(つづく)
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