第5話 異世界への切符
「……おーーーい、アル~……おーい………」
「あ、お父様だわ……」
急いで目のあたりを擦って、いつものにこやかな笑みを浮かべて、遠くから走って来る父親を迎えた。
たぶん、父親には気弱になっているところは見せたくないのだろう。
「アル、タロウ先生と散歩かい?ちょど良かったよ、今、手紙が届いたんだ」
父親のジョンディアは、手紙の中身をアルティシアに見せた。
「え?……どういう事なんですか?」
手紙を読み終えた彼女は、目を丸くして口を押えてしまった。
「どうしたんだい?アルティシアさん?……ボクのことが何か分かったのかい?」
彼女は、嬉しそうに手紙を見つめていた。
父親のジョンディアは、もう待ち切れないという衝動を隠し切れず手紙の内容を話し出した。
「ああ、そうなんだ、タロウ先生……君は、やっぱりタロウ先生なんだよ!」
父親のジョンディアは、事の顛末を早口で捲し立てた。
要するに、当初派遣される予定だったアルバートという家庭教師は、都合により派遣が中止されていた。代わりの家庭教師が見つかり、こちらに旅立ったが、名前などは登録されていないので、分からないとのことだ。
ただし、男性で歳の頃は、ボクと同じくらいだそうだ。
「お父様!……でも、家庭教師の方は、派遣依頼状を持って来たんですよね」
「ああ、あの事故の時、君の荷物を調べさせてもらったんだ。急なことだったので、何か手掛かりが欲しくてね………君の荷物の中に、その書類があるはずだが………」
みんなで急いで家に帰り、荷物の中を探した。
「あった、これですか?」
ボクは、書類を父親のジョンディアに見せた。
「ああ、これだ、これだ。……………ん?……あ!名前が……『ヤマグチタロウ』になっているぞ!……わしが見た時は、確かに『アルバート』だったんだが………」
「よかったわ!……これでタロウセンセの記憶も確かだということよ!」
「そうだな、これですべて解決だ!……じゃあ、改めてよろしく頼むタロウ先生!」
父親のジョンディアも娘のアルティシアも、大喜びで満面の笑顔になった。
ただ、ボクには、そんな家庭教師の記憶はない。ボクは、ただの幼稚園の先生で、この間まで『虹ヶ丘幼稚園』で年長さんを担任していただけなのだ。
≪ここは、どこなんだよ~~ボクの虹ヶ丘幼稚園は、どこにいったんだよ~~≫
(つづく)
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