第44話 不確定遭遇
午前中の稽古を終えたボク達は、湖の近くでお弁当を広げていた。今日は、畑仕事もお休みということで、ジルとメルが一緒だった。
いつもは、お昼は家に帰るのだけど、今日はハーティが気を利かせて、お弁当を作ってくれた。
天気もいいので、少し遊んで来たらいいよという意味だとボクは思い、感謝した。
もちろんアルも大喜びで、母親に抱き着いてお礼を言っていた。
「センセ、早く、早く……センセは、ここね!」
アルは、いつも自分の横をボクの指定席にするんだ。
「うわあー美味しそうだなあ~」
「ボク、おばさんの料理が大好きなんだ!」
ジルもメルも、お弁当を見て大はしゃぎした。
「あのね、お母さんが、これ持って行けって……」
「すごい、もう成ってるの?ジル君のところの畑は最高ね!あたし、これ大好きなの!ありがと!」
ジルが、持って来たのは、赤い円錐形の実だった。実には緑の葉がついているので、これは一つ一つの実を手で摘んだことが分かった。
赤い色が濃い物の方が甘いんだそうだが、ジルの持って来た実は、すべてが真っ赤だった。柔らかく、どことなく酸味もあったが、しっとりした甘みの方が勝っていて、とても後味が良かった。
「センセ知ってる?これに、“ロベリースト”って言うのよ!美味しでしょ!……うわっ、うふっ!」
アルは、一口食べて、喜びの声をあげた。
「お母様はね、これでジャムを作るのよ。とっても甘くて、美味しいの!」
そう言えば、前に食事の時、パンに塗って食べたものだ。あの時は、ボクの世界と同じなんだと感心したことを覚えている。
そうか、やっぱり材料は、『いちご』と同じ味がするんだ!
そんな懐かしい味を楽しんでいたのに、突然小鳥が一斉に湖の傍にある林から飛び立っていった。ものすごい数の鳥達だったので、羽音がけたたましく、湖の水面が波紋で乱れてしまった。
それまで、風も無く波一つ立っていなかったのに、怪しい雰囲気が周りの景色を一変させたような気がした。
「あ!あれだよ、あそこを見て!」
ジルが、少し離れた林の方を指さした。ちょうど、林と草原の境目に、何やら黒い塊が見えていた。
「何?あれ?……あの黒い塊は?」
ベルも知らないらしい。もちろん、ボクなんかは、知る由もない。
「オレ、知ってるぞ!……前に母さんから聞いたことがある。昔は、よくこの辺を暴れ回って、家畜や農作物を食べたって!……魔獣の“ヒマグー”だよ!」
ジルが、“ヒマグー”と呼んだそれは、全身に真っ黒の毛が生えていて、四つ足でこちらに近寄って来ている。
体の大きさは、人の2倍くらいに見えるが、手や足(4本とも足かもしれないが?)は、異常に太い。
「センセ、どうしよ?……戦う?」
そう聞いてきたアルの目は、もうやる気満々だった。
(つづく)
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