第41話 隣の町
「それにしても、この料理は美味いな~」
ジョンディアは、ほろ酔い加減もあり、とても上機嫌だった。出された料理は、片っ端から味見をして、その旨さに満足げだ。
「そうでしょ、だってこの料理に使っている野菜は、珍しいものばかりだもの。
昨日、アーレンさんと行った買い物は楽しかったわよね」
「ええ、少し遠いけど一日で帰って来れたし、あんなに珍しいものが売られているなんて知らなかったわ」
アルの母とジルの母は、エルフとして昔からの知り合いらしく、とても仲がよかった。
昨日も二人で歩いて隣町へ買い出しに行ってきた。朝早くに出かけたのに、帰りはもう暗くなっていた。
馬や馬車に乗るともう少し早く行き来できるが、ジルの家の馬は農作業に掛かりっきりで使えなかった。
アルの家の馬は、去年事故で谷底に落ちてしまったので、今は居ない。
代わりの馬を探そうかと言っていたが、なかなか見つからないのだ。それだけ、馬は貴重だという事らしい。
「うーん、あの町もようやくここ1,2年で活気が戻ってきたような感じなんだ。
あの戦いで、どこの町も多大な被害を受け、その日の暮らしをするだけで精一杯の日が続いたんだよ」
ジョンディアが、少し寂しそうに話した。
「オレもあの町が好きだな~たっくさんのお店があるけど、それだけじゃないんだよ」
「え?ジルも良く行くの?」
アルが、町に興味を持ったらしく、身を乗り出して尋ねてた。
「うーん、良くでもないけど、1年に2,3回は母さんに連れて行ってもらうんだ」
「いいなあ、ジルは。あたしなんか、まだ他の、町に行った事が無いのよね」
本当にアルは、世間を知らなったんだな。ジョンディアが心配するのも無理はないか。
「……まあ、オレが行くのは、馬を操るためなんだ。町は遠いし、荷物を運ぶのも大変だから馬車を持って行くんだ」
「そう言えば、ジル君の家には、いい馬車があったわよね」
「いや、あれは畑で穫れたものを運ぶのに、昔父さんが使っていたものらしいんだ」
すると、ジルの母親のアーレンが懐かしそうに話し出した。
「そうね…………
あの馬車は、お父さんが手作りしたものなの。
昔はね、私達が生活していたエルフの村はとっても豊かで、いろんな野菜や果物がすぐ手に入ったわ…………
だけど、魔獣が悪さをするようになってからは、村は荒れてしまったのよ…………
お父さんは、村のみんなを守りたくて仕方なかったの。
ある日、お父さんは食料の野菜や果物を他の町から買って運んでくるために、馬車を作ろうとしたのよ。
見様見真似で、馬車を作るのに半年もかかったわ。だって、エルフに馬車なんて必要じゃなかったんですもん」
「そうだったわね、私も覚えているわ。
私達は、あの馬車のお陰で、本当に助かったの。いつも、食料を確保してくれるんですものね!」
ハーティも懐かしそうに話していた。
「あ、えっと……その野菜や果物を買うお金はどうしたんですか?」
ボクは、こちらの世界が、どんな仕組みなのかは未だわからない。アルの家にいれば、決まった時間に食事ができるし、住むところも着るものも不自由しない。
「まあ、そうね……エルフはお金を稼ぐ方法は知らないのよ。
お金が無くても、自然の中で十分暮らして行けたの…………以前はね……」
きっと、魔王と魔獣は、そんな平和な生活も破壊してしまったんだ。
「それでもね、アルちゃんのお母さんが集めた花の蜜や果物で作った回復薬は、どんな種族の人にも評判がよくてね、いろんなものと交換できたのよ」
「もー、あーちゃんったら、あれは私のヒールの魔法のお陰なのよ…………
そう言うあーちゃんだって、野菜を干して乾燥させたものは、とっても美味しかったじゃないの!今日も戴いてるわよ、これ、これ、これよ!」
ボクの世界の沢庵にそっくりな食べ物を見た時は、本当に嬉しかった。
ボクは、そんなに漬物は好きではなかったけど、こちらの世界に来てから、たくさんの漬物を食べるようになったんだ。
「だって、私の魔法は、水を操ることだけなのよ。
あれは、野菜の水分を魔法で抜いているの。
大したことじゃないわよ……あはははははは」
「何いってんの、あーちゃんなんか、畑に魔法で水を撒くから、すっごく良い作物がいっぱい穫れるじゃない。
アルも先生も、あーちゃんのところのシュノミが大好物なのよ!うふふふふふ」
あの美味しいシュノミって、魔法で水をやっているのか……すごいなあ~
「オレね……もう決めたんだ!」
ジルが、そんな収穫の話をする母親達に、しっかりとした口調で宣言した。
「おや、ジル君は何を決めたんだい?」
ジョンディアは、ジル少年の言葉に興味を示した。
ジル少年は、アルと同じくらいの年齢らしいから、彼もそろそろ自分の進路を考えているんだろう。
「俺はね、父さんの後を継ぐんだ。
あの町のように、この村にもたくさんの野菜や果物が育つように頑張ろうと思っているんだよ。
オレは、この村をもっと住みやすい村にして、もっと多くの人が暮らす町にしたいんだ!」
「そうか!わしは、魔獣と戦って村を守ることしかできないが、絶対に君達を助けてあげる。何でも相談してくれよ!」
「うん、ありがとうおじさん!」
笑顔で自分の夢を話すジルを見ていると、ボクの周りに居るみんなも自然と笑顔になっていた。
ただ、アルティシアだけは、羨ましそうにはしていたが、何か自分も決意したように見える目をしていた。
(つづく)
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