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第40話 15歳の誕生日

「うっわー……すっごいわー……お母様、ありがとう!」


「どういたしまして。今日は、あなたの誕生日よ!……私は精一杯のご馳走を作ることぐらいしかできないけど、たくさん食べてね!」


「うん、とっても美味しそう!」



 アルティシアは、テーブルに並べられたたくさんの料理に舌鼓を打ちながら、集まった人達にトビっきりの笑顔を振り撒いていた。

 こんな笑顔を見ると、ボクはあの頃を思い出す。


 幼稚園で初めて受け持った年長さんの子ども達。

 いつもボクに寄って来ては、楽しい話をしてくれたんだ。その度に、みんなが笑ったあの笑顔…………アルの笑顔を見るたびに懐かしくなる。




 庭のチェルシーの木にきれいなピンクの花が咲いた。掌サイズの花は、5枚の花弁で出来ている。

 その満開の花は、木全体をピンクの綿菓子で包んでいるように見える。


 アルは、よく『美味しそうな木』と、言って嬉しそうの手を伸ばすこともある。




 風が、生暖かくなり、また夏が近づいていることを感じる。森の木も緑が多くなり、家の周りも草が生い茂り出した。


 草に交じって黄色い小さな花がたくさん咲き出した。アルは、“ポポタン”と、言っていたが、名前の響きといい、小さな黄色い花といい、ボクにとってはあの子達との思い出が詰まっているような花に思えた。


 

 スヘール(ゆき)が積もっていた頃とは違って、また小さな虫がたくさん出現してきた。ボクの世界では、昆虫と呼んでいたような虫だ。

 中でも“フューフュー”という虫は、アルのお気に入りだった。黄色く薄い羽根を大小4枚背中に付けて、風に浮かぶように草むらや花の周りを浮遊している。



 ボクは、そんな暖かく気持ちのよい風景を窓越しに見つめながら、どこか寂しい思いも抱えていたのだった。



「センセ!早く、早く……ここに座って!」


「あ、ああ……」


 アルに急かされご馳走の並んだテーブルに着くと、傍にはジル=バーンが座っていた。今日は、お隣のジルさん一家も招待していた。

 兄のジル、弟のメル、そして母親のアーレンだ。皆、エルフだ。父親は、先の“悪魔の1年”の後、生き残った魔獣がこの村を襲った時に、亡くなったそうだ。



「さあ!まずみんなで、アルの誕生日を祝って、乾杯しようじゃないか!」


 父親のジョンディアが声を掛けた。


「今日は、甘くておいしい飲み物を作ったわ。昨日、隣町の市場から買ってきた甘い果物を幾つか混ぜてみたの、たくさんあるからお代わりしてね!」


 母親のハーティが、腕に縒りを掛けて作ったものを紹介した。


「この飲み物も美味しそうだが、タロウセンセ、我々はいつものアレをいただくことにしないかね?」


「そうですね、大人は…………アレですよね!」


 ジョンディアは、お酒が好きだった。時々ボクも付き合って飲んでいたが、トウモロコシのような甘い植物を磨り潰して発酵させたものだ。

 少し白味がかった色だが、口当たりがよく、すっきりしていて美味しいものだ。


「うふふっ……きっとあなたならそう言うと思って、用意しているわよ。……はい、どうぞ」


「おお、流石がハーティ!ありがとう、じゃあタロウ先生も………」


「あ、ちょっと待って、あなた。それに、この私が作った甘い飲み物を少し垂らして飲んでみてもらえる?」


「ああ、構わんよ……………………う?うん!これは、上手い!タロウ先生も、………」




「うわあーー…………ほんのりと甘みがあり、後味がよりスッキリと舌が刺激され、すぐにまた飲みたくなります。とっても美味しいです!」



「そうなのよね~…………だからね、飲み過ぎには注意してね!」


「おや?ハーティ、ヤケに詳しいんじゃないかい?さては……」


「えへっ……ちょっとつまみ食いをね!……おほほほほほ」


「まったく……あはははははは」


 ジョンディアもハーティも、大笑いをしていた。




 とても、楽しいアルの誕生会が始まった。





(つづく)


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