第39話 誕生日の悲喜
「アル、そろそろ誕生日会をやろうか…………」
夕食を食べながら、不意にジョンディアは、みんなにそう告げた。彼は、その言葉を発した後、しばらく無言で遠い目をしていた。
「そうね……庭のチェルシーにも大きな蕾ができてきたわ。後、2,3日で、花が咲き出すわね」
ハーティも娘のアルティシアを見ながら、何やらメモを書き始めた。
「ねえ、お料理は、こんなところかしら?……他に、もし食べたいものがあったら言ってね。あなたの誕生日なんだから、あなたの好きな物を作ってあげるわ。
…………あたし達にできるのは、このくらいなの…………。」
「うん、分かったわ。今晩、考えてみるね!」
そう言って、アルは自分の部屋に戻って行った。
「タロウ先生、この1年ありがとう」
ジョンディアは、今更のように神妙な顔で、ボクに礼を言ってきた。
「何を言ってるんですか?これが、ボクに仕事をくれたのは、ジョンディアさんじゃないですか?当然のことをしたまでですよ」
「いや、君は仕事以上の事をしてくれたよ!アルが魔法を使えるようになったのも、君のお陰だ。
…………だから、頼む。後1年……16歳の誕生日まで、よろしく頼む」
16歳の誕生日で、アルは人生の目標を定めて独り立ちするのだろう。つまり、父と母にとっては、別れの時期になるのだ。
ボクの世界での誕生日は、いくつになっても楽しいことなのだけど、ここでは少し違うような気がする。
大人になるエルフ達本人にとっては、楽しいのかもしれない。
けれど、家族としては、微妙だろう。増して、この家族は、母だけがエルフで、父は人族なのだから。
「あなた、ダメよ、そんなに思い詰めたような顔したら。タロウ先生だって困るじゃない。すべては、アルが思う様に決めればいいこと。アルが幸せならいいじゃないの!」
笑顔で、話すハーティは、きっとこのような別れを何度も繰り返してきたのかもしれない。ボクは、聞きはしなかったけど、なんとなくそんな気がした。
「いい?それじゃ、アルの誕生日は、1週間後にしましょう!先生も食べたいものがあったら、行ってよね。奮発するからね。
それに、ジル君の一家も呼んじゃいましょう。いっつも畑のものをいただいてお世話になってるし、最近ジル君もよく遊びにくるのよね」
なんだか、楽しさの方が多そうな誕生日会になりそうな気がした。
(つづく)
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