第35話 魔獣ウルファ―
ヒュオオオオーーーーー……ヒュオオオオーーーーー
「何かしら?ハーティさん?」
種蒔きをしていたお母さん達は、手を止め、腰を伸ばして、あたりへの警戒を意識し耳を欹てた。
ヒュオオオオーーーーー……ヒュオオオオーーーーー
「こ、これは、ウルファーだわ!みんな、急いで家の中に入るのよ!」
ハーティの声に従って、ボク達は急いで近くの小屋に向かって走った。
「アル!剣は持っているかい?」
「大丈夫よ、ここにあるわ!」
去年、ラビッシュに襲われた経験から、外に出る時は必ず武器を携帯するようにしていた。
畑で作業する時の道具などを収納しておく小さな小屋だが、避難する場所としてはこのくらいしかないのだ。この他は、あたり一面畑で、隠れる場所などどこにもなかった。
「アル!後ろだ!剣を構えるんだ!」
走って逃げるボク達に、ウルファ―はすぐに追いついて来た。どこから現れたか、見当もつかなかったが、とにかく奴は、ボク達を狙っていることが分かった。
「みんな、アルの後ろに隠れて!」
小屋までは、もう少しなんだけど…………うわっ!飛び掛かって来た!
「……エイ!……ヤー!」
アルは、迫ってくるウルファ―の牙を剣で受けるだけで、精一杯だった。幸い、ウルファ―は、一匹しかいない。何とかこいつをやっつければ、ボク達は助かるんだ!
「アル!このウルファ―は、口の牙が武器なの!……後は、4本の足の爪に気を付けて!」
ハーティが、叫んだ!
ウルファ―は、四本の足で、四つん這いになり、眼光鋭く獲物を狙う目をしていた。ボクの居た世界では狼と呼ばれている動物に似ているが、体は小鹿ぐらいはあった。
そのくせ、走るのが早くジャンプも高い。
剣を四方に振るアルを軽く飛び越してしまうくらいだ。
ウルファ―は、畑の中を駆け回り、ボク達を追い回しながら、同時に畑を荒らしまわっていた。前足で土を一掻きすると、畑には人が填まりそうな大きな穴ができた。
こんなことを何度も繰り返されると、折角手入れした畑がめちゃくちゃになってしまう。
「アル!また来たぞ!除けろ!」
「きゃあ!…………イヤーーーー!」
アルは、瞬時にウルファ―を右に躱して、左のお腹を目掛けて剣を振うが、なかなか当たらない。
ボクは、楯でハーティやシル達を守っているが、どうしても楯の大きさじゃみんなを守りきれないんだ。
その時、ハーティがボクの背中を引っ張って話し掛けてきた。
「タロウ先生、あなたのブーメランをアルに渡すの!……早く!」
「はい、ハーティーさん」
ボクは、すぐに背中に背負っていたブーメランケースからブーメランを抜き取った。
「アル!これを使ってくれ!」
「え?ブーメランを?」
「アル!そのブーメランに想いを込めなさい!あのユキ球のように!そして、力いっぱい投げるのです」
すかさず、叫んだハーティの声は、自信に満ちた確かなものであった。
「分かったわ!お母様!…………行っくわよー!……ソレッ、ヤーーーー!!」
アルは、一度剣を地面に突き刺し、ブーメランを右手に持ち替え、渾身の力を込めてウルファ―目掛けて投げつけた。
ブーメランは、高速回転で自転をしながら、とても速いスピードで左旋回をしてウルファ―に近づいた。
ところが、ウルファ―は高くジャンプして、ブーメランの軌道からそれてしまった。
だれもが、失敗かと思ったその時、ブーメランは眩い光を放ち出し、また旋回をして、今まさに着地しようとしているウルファ―の足元に舞い戻って行った。
「フギャアアアー」
ブーメランは、ウルファ―の右の前足に当たり、ケガを負わせた。
「ウリャリャリャリャーーーーーーーーー!」
すかさず、アルが剣を握りなおして、動けなくなったウルファ―目指して突っ込んで行った。
(つづく)
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