第34話 冬の終わりに
「センセ!湖の氷がすっかり無くなってるわ!」
「そうだな、そりゃ雪も溶けたし、広場にも薄っすらと緑色が見えてきたんだ。……風だって気持ちのいい暖かいものになったもんな~」
「ねえ、センセ!畑に行ってみない?村の人達が、もう何か植えてるかも知れないわ!」
「そうだな、久しぶりに畑仕事でも手伝って来るか」
この村にも春が訪れたんだ。こちらの世界では、あまり季節を意識していないのか、四季を表す言葉は無いらしい。
その代わり、“スヘールが降った”や“庭のチェラシ―の木に花が咲いた”など、その時期特有の出来事や植生を引き合いに出して、季節の変わり目を感じているようなんだ。
もちろん、細かなカレンダーというものも存在しないけど…………
一日は、太陽が再び昇ってくるまで。
一年は、同じ木に再び花が咲くまで。
後の区切りは、気象現象や花の咲き方で表現されることが多いようだ。
例えば、“スヘールが溶けるまで”とか、“シュノミの収穫が終わるまで”などのように。
「そう言えば、今日は二人とも出かけたね」
「ええ、お父様は少し離れた村の様子を見て来るって言ってたし、お母様はシル・バーン君の家に手伝いに行ったわ」
「そう言えば、シル君のところからは、去年たくさんシュノミを貰ったね……ボク達も行ってみようか?」
「うん!そうしよ、センセ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おーーーい!……おかーーあさまーーーー!」
「あら!あれはアルちゃん達じゃないかい?」
「え?……ああ、そうだわ。……どうしたのかしら?……アルーー!ここよーー!」
「ほら、あそこ。手を振ってるよ!」
「ホントだ!おおおーーーーい!」
ボク達は、畑の真ん中で作業をしているハーティを目指して、駆けて行った。
「……どうしたの?」
「えっと、ハーティさん、ボク達にも何か手伝わせてください」
「おや!アルちゃんと先生が、うちの畑仕事を手伝ってくれるのかい?」
「おばさん、お願い!あたし達にできることはないかしら?」
「ホントにいいのかい?手伝ってもらって……」
「はい、いつもお世話になってるお返しです。ボクもアルも、おばさんのとこのシュノミが大好きなんです」
「嬉しいこと言ってくれるね~。いいのかい?ハーティさん。手伝ってもらっても……」
「構わないわよ、魔物をやっつけるのは得意だけど、畑仕事はあんまり当てにならないかもしれないけど……アハハハハハ……」
ハーティは、ボクらを見て嬉しそうに笑っていた。
「もう、お母様ったら~、教えてもらえば、あたしにだってできるんだから!」
「あーはいはい、大丈夫だよ…………私が教えてあげるから、こちらにいらっしゃい」
シルの母親も嬉しそうにボク達を畑の方へ招いてくれた。
「今はね、ああやってシルとメルが、畑を耕してくれているから、私達はシュノミの種をまいていたのさ。できれば、アルちゃん達は、シルとメルを手伝ってくれないかい?」
「ええ、わかったわ」
ボク達は、兄シルと弟メルの傍に行って、畑耕しを手伝うことに。
「……そうそう、そうやってこのクワで土を柔らかくしていくんだ。……うまいぞアルちゃん!」
「ありがとう、シル君!……………………えっとね……」
なぜか、アルはちょっと言葉を飲み込んで、真面目な顔で、シルに向き合った。
「……その“アルちゃん”って言うのは、もうやめて欲しいな~…………あたしね、もうすぐ15歳になるのよ。“アル”って呼んでよ!」
思わぬアルの進言に、同じ歳位のシル少年は、少し面食らった様子に見えた。
「お、おお、分かったよ。ア、ア、アル……?」
「えへへへ、そう、ありがとね!」
アルは、再び笑顔に戻ったが、シル少年からのお返しを貰うことになる。
「じゃ、じゃあさ、俺のことも呼び捨てでいいよ!……な!」
「うん、分かったよ、シル!」
アルは、嬉しそうに言葉を返していた。
そんなに歳は離れていないように見える二人だったが、何となくアルティシアは、あと1年で大人の道を決めなければならないというのを意識しているようにも見えた。
(つづく)
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