第31話 目覚め
「行くわよ~それっ!」
ボクの背の2倍以上ある人型の雪像は、ハーティの魔法で自由に動けるようになっている。
雪像なのに、関節は曲がるし、腰や首まで自由に動いてる。ボクは、昔テレビで見た巨大ロボットを目の当たりにしているような気になった。
「あの~ハーティさん?この人型と戦ってもいいですか?」
ボクは、なんとなくこの人型が、稽古の相手に見えて来た。
「ええ、構わないけど…………私は戦い方なんか分からないわよ」
笑顔のハーティは、そんなことを言いつつも、両手を伸ばし人型に魔法を込めた。
すると人型は、ボク達を目掛けて突進してきた。背丈もあり、大きな足で踏みしめながら走ると、自然に雪煙が舞い上がり、真っ白な世界が上空まで広がった。
「アル!これを使って、人型の雪像を攻撃してご覧」
「え?これで、戦うの?」
アルは、木で作られた剣を構えると、正面から雪像を迎え撃った。
突進してくる雪像をギリギリで避けながら、木刀で雪像の腕や胴を切りつけた。
まあ、切りつけると言うより、木刀で叩いたと言った方が合っている気がする。
雪像は、魔法のお陰で表面が金属のように固くなっているので、アルの攻撃なんかにはビクともしない。
「センセ!全然ダメよ!とっても、硬いので手が痺れるだけよ!」
なかなか手強い相手になってしまったな。ハーティも嬉しそうに、両手を左右に動かしながら、魔法で人型を操っているようだ。
これこそ、雪の中で戦っているんだから“雪合戦”なんじゃないか?と考えていたら、いいことを思いついた。
「アル、今、いい物を作ってやるから、しばらく時間を稼いでくれないか?」
「ええ、いいわよ、センセ!
…………………じゃあ“セツゾウさん”、もう一回行くわよ!とりゃあああああーーーー」
よし、その間にボクは………………………………
「……よし!これくらいあれば、いいかな?…………アル~~、これを使ってみてくれ!」
「センセ、準備できたの?……何?これ?」
アルが、雪像の突進を避けながら、ボクの近くに来た。そして、ボク作った、雪の球を不思議そうに手に持って眺めたんだ。
たぶん、アルは雪合戦なんかしたことはないから分からないかもしれないけど、雪の中の戦いと言ったら、もうこれしか考えられないよね。
「この雪球をあの人型の雪像にブツケルんだ!」
「え?これをブツケルの?…………投げればいいの?」
「そうだ!思いっきりブツケテやるんだ!」
「うん、分かったよタロウセンセ!…………よーし、うりゃああああああ~~!」
そうだ、その調子でブツケテやれ!
「おりゃああああああーーーーー!」
「とりゃああああああーーーーー!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ただの雪球だから、いくらアルが力一杯投げても、魔法で表面が硬くなった雪像の人型には太刀打ちできないのは分かっていた。
でも、雪球を何度も投げているうちに、アルも、周りで見ているジョンディアも、雪像を動かしているハーティも、みんな嬉しそうに声をあげて笑い出していた。
「センセ!……なんか、とっても楽しいわ!……うりゃあ!」
「そうだ、タロウ先生、“スヘール”って、こんなに楽しい物なのか?今まで、ちっとも気が付かなかったぞ!…………わしも、雪球を投げてもいいか?」
「もちろんですよ!」
暫く雪球を投げて…………戦いというより、遊んでいたみんなだったが、アルが急に可笑しな事を言い出した。
「センセ?……あたしの雪球が光ってる!……ほら、ほら、ほら……ね、光ってるでしょ?」
言われれば、アルの投げた雪球が、ぼんやりと光を放っているように見えた。そのうちに、アルの雪球は、雪像の胸や足に当たると、めり込むようになってきた。
ボヒュッ! ガヒョッ! ドビュッ!
アルが特に変わった投げた方をしている訳ではなかったが、雪球の破壊力だけが増しているようだった。
ブボッビュ!バッカーーーーン!
アルのブツケタ雪球のせいで、あれだけ硬かった雪像の人型が、粉々に崩れてしまったのだった。
「ダメ、もう私の魔法でも、操れなくなったわ…………あなたの勝ね、アル!」
「ええーーー?さっきは、あれだけ思いっきり木刀で叩いてもビクともしなかったのに、こんな雪球で雪像の人型を壊しちゃったの?」
自分でやったことなのに、アル自信も不思議さで訳が分からないという顔をしていた。
すると、ハーティが、嬉しそうにアルを抱きしめた。
「アル!おめでとう!……とうとうやったわね。あなた、魔法が使えるようになったのよ!」
「え?お母様、どういうことですか?」
(つづく)
ありがとうございます。もし、よろしければ、「ブックマーク」や「いいね」で応援いただけると、励みになります。