第25話 お互いの役割
ボクは、慎重に身を楯で守りながら大木の根元の穴を目指した。
「アル!もう少し頑張ってくれ。ボクが、きっと何とかするから……」
「大丈夫よ!センセ……あたし頑張る!」
穴から湧き出したラビッシュは、ボクの楯を避けるようになってきた。今は、すべてアルの方に一直線で突進している。
アルは、向かって来るラビッシュを除けながら、剣で倒している。どうも、アルの剣が少しでも触れたら、一瞬にしてラビッシュは、塵になり消えている。
この間のフォックスも、アルの一撃を受けたと同時に、塵になり消えていたので、魔物の最後というのは、皆同じようになるのだろうか?
今のボクには、まるで分からないが、とにかく目の前のラビッシュを片付ける方法を考えるんだ。
ようやくボクは、魔物のラビッシュが湧き出す穴の近くまでやって来れた。たぶんこの楯のお陰だと思う。
ボクは、近くの木に登り、枝を伝って隣の木に近づき、根元にある魔物が湧き出す穴を上から覗くことができた。
確かに、人の頭ぐらいの大きさの穴からラビッシュが次から次へと湧き出していた。
ん?
その時、穴の中で、わずかな光の点滅を見つけた。
「なんだ、あれは?」
ボクは、枝を頼りに、静かに隣の木の方へ移ることができた。こう見えても、ボクは遊びが大好きだ。もちろん木登りなんかも得意なんだ。
「分かったぞ!……ア~~ル~~!分かったぞ~~!」
ボクは、木の上からアルを大声で呼んだ。
「ここだよ!これを、アルの剣で衝いてくれ!……この木の根元だ!」
「うん、分かったセンセ。…………でも、なかなか進めないよ!」
大量のラビッシュが、アルをめがけて集まっているので、それを倒すだけで、余裕がないようだ。
「よし、分かった!アル!……魔物はボクが引き受ける……君は、この穴に剣を挿してくれ!」
「え?でも、どうやって魔物をセンセが?」
「じゃあ、行くぞ!」
ボクは、木から飛び降り、アルと反対の方向へ走り出した。その時、アルに向けてボクの楯を放り投げて渡したのだった。
「さあ、ラビッシュよ!もう楯は無いぞ!こっちに来い!……ほら、こっちだ!」
ボクは、わざと大声を張り上げ、ラビッシュの視界に入るようにした。
「え?センセ……楯を離したら、ラビッシュを防げないよ~!」
「大丈夫だ。それより、その楯を使って、早く木の穴へ…………頼むぞ!」
アルは、何か叫んでいたが、それでも左手で楯、右手で剣を持ち、ラビッシュを切り倒しながら、穴へと向かった。その頃には、ほとんどのラビッシュは、ボクをめがけて突進してきていた。
「よし、この辺でいいだろう。これだけ離れれば、ボクが失敗しても、アルならやってくれるはず…………エイッ!」
ボクは、走っている方に向かってブーメランを投げた。
前方へ飛んだブーメランは、カーブを描いて元居た自分の所に戻ってきた。でも、自分は前に走っているので、ブーメランは後ろから追っかけて来たラビッシュに命中した。
それほどの効果は期待していなかったが、戻って来たブーメランは、ボクを追い駆けていたラビッシュを一網打尽にし、すべて消し去ってしまった。
「今度は、あたしの番よ!…………トリャアアアアアーーーーー!エイッ!」
アルは、思い切りジャンプして、穴の真上から剣を突き立てた。
その瞬間、穴からもの凄い光が放射状に飛び出し、一瞬にして、まだその辺にいたラビッシュがすべて消えてしまった。
「センセ…………タロウセンセ……どうしたの?これ、どういうこと?」
呆然と周りを見渡すアルは、一気に気が抜けたように、その場に立ち尽くしてしまった。
ボクが、ようやくアルの傍に戻って、彼女の手を握ると、急に我に返ったようにアルはボクに抱き着いて、涙を流した。そして、アルは、「よかった……よかった……」と、繰り返していた。
ボクが、アルの頭を撫でながら、周りの様子を眺めていると、少し離れた木の陰に、黒い影のようなものが動いたような気がした。
「ズッ……ズー……センセ、……あの光は何?……」
だいぶ落ち着いたアルは、鼻水を啜りながら、不思議そうな顔をして聞いてきた。
「ああ、ボクもよく分からないんだけど
…………穴の中に、卵の様なものがあって、ラビッシュは、そこから湧いていたんだよ。ひょっとして、あの卵を壊せばもうラビッシュは生まれないんじゃないかと思ったんだ」
「やっぱり、タロウセンセは、すごいなあ~。あたし一人じゃ、絶対やられていたもんね」
「い~や、そんなことはないよ。君が、あれだけラビッシュをやっつけてくれていたから、ボクはいろいろ調べられたんだ。ボクこそ、君がいなかったら、すぐやられていたよ」
「何言っての、センセ!センセのブーメランだって、凄かったじゃない、一発でたくさんのラビッシュをやっつけたでしょ!」
「うーん?それがね~………」
あのブーメランの威力は、普通じゃなかったんだよね~……………
(つづく)
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