第23話 緊張
周りの畑もほとんど収穫を終え、緑の葉の色はどこにも見当たらなくなってきた。時折吹く風は、肌寒さも感じられ、もうすぐやって来る冬がそんなに遠くないことを告げていた。
ボクとアルは、初めての魔物退治に森を目指してやって来た。
この間は、予期せぬフォクサーとの戦いだったので、何の準備もしていなく、とてもヒヤヒヤしたのを今でも思い出す。
しかし、今回は違う。ボクもアルも、準備は万全だ。
「タロウセンセ、怖くない?」
森の中は、あちこちを警戒しながら歩くので、とてもゆっくりだ。ボクは、どこから魔物が出て来るか気を張り詰めていたので、急にそんな声を掛けられて、少し驚いた。
「こ、こわく……なんか、ないぞ!……こ、この前……とは、ちが……うんだからな!」
「あれ?センセ、ドキドキしてるの?」
アルは、少しニヤニヤしながら、ボクの手を握ってきた。
「わっ、センセの手、冷たくなってる……緊張してるのね!」
そんなことを笑顔で言うアルだったが、彼女の掌は汗でビッショリと濡れていた。
そうか、平気な顔をしているけど、アルもドキドキしてるのか……。
「なあ、アル、この辺を少し走ろうか?……手を離すなよ!」
そう言って、ボクは手を繋いだまま、薄暗い森の中を少し、駆け足で走ってみた。
「……はあ、はあ……うん、……すーはー……はあ、はあ……」
次第に、ボクの息はあがって、呼吸も早くなってきた。
それに比べ、アルの頬は高揚してきたが、息は整って、目もランランと光が増したように見えた。
「ウフッ……センセ、ありがとう。あたしも、落ち着いたわ。ちょっと体を動かすと、落ち着くのね」
「そ、そうだ、な……ハアハア……アル……は、いいけど……ハアハア……ボクは、息があがってきた…………ちょっと休ませてくれ」
「あははは、センセは弱っちいなあぁぁ~」
アルは、言葉とは裏腹に、とても楽しそうに笑いながらボクの手を握ったまま、横に座った。
ボク達は、大木の根元に腰を降ろしながら、周りの様子を見渡していた。たくさんの木が所狭しと生えている。
何となく、獣道のようなものも見えるので、この森は魔物以外にも動物が暮らしているのかも知れないと思った。
そう言えば、動物の肉も食事で出されるが、あちこちの森で狩りをすると言ってたなあ。
そんなことを思い出していると、少し離れた場所の木の根元にある穴から何かが顔を出しているのが見えた。
「センセ!立って」
え?え?
「きっと、あのラビッシュが、襲ってくるわよ!」
アルが、そう言い終わらないうちに、あちこちの木の根元から、その“ラビッシュ”らしきものが次々に顔を覗かせているのが分かった。
「ア、アル……あれは魔物なのか?」
「ええ、あれはあたしでも知っている魔物よ!弱いんだけど、あんなに数が多いと…………」
アルが、剣を抜いて構えると、一斉にラビッシュが後ろ脚でジャンプしながら、こちらに向かって来た。
ボクは、頭を抱えてしゃがみ込み、思わず大声をあげてしまった。
「うわあああああああーーーーーーーーー!!!!!」
(つづく)
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