第22話 実戦へ
「よし、アルはここで、待機していてくれ」
「え?センセは、どうするつもり?」
「ボクは、少し森の中に入って様子を見て来るから」
「ダメ、ダメ……あたしも一緒に行きます!」
強い口調のアルに、少しびっくりしたが、夕べ、ジョンディアに聞いた戦い方の極意のようなものをもう一度ゆっくりと思い出し、アルに話すことにした。
「いいかい、アル……初めての場所で戦う時は、慎重にしないとダメなんだ。敵が隠れる場所や敵の数など、分からないことがたくさんある。
だから、仲間が居たら、できるだけ協力して情報を集める必要がある」
ボクの話は、ジョンディアの受け売りだが、ジョンディアの考えと唯一違うところがあった。それは、何の戦う技術もないボクが先に森に入るということだ。
もちろんジョンディアは、剣の技をもっているアルの方が森へ入り、ボクは後ろの安全な場所に隠れて見守るという作戦だった。たぶん、アルもそう思っていたようだ。
「だったら、あたしが森へ入ります!……センセは、この森の入り口のところで、指示してください」
ボクは、そんな緊張に耐えるだけの度胸も勇気も、まだなかった。アルが一人で森へ入ってしまったら、心配で心配で、きっと居ても立ってもいられないことぐらいは、分かっていた。
ボクは、アルの家庭教師だ。彼女は、教え子なんだ。危険な事はさせたくない……でも、アルを強くしないと、この先彼女は困ることになるんだ。
「そんなことは、できない。ボクが、後ろで待つなんて!」
「…………じゃあ、やっぱり一緒に森へ入りましょ、ね、センセ!」
落ち着いた様子で笑顔を見せる“アルティシア”。……うん、やっぱり彼女は、強いのかもしれない。
「わかったよ、一緒に行こう。その代わり、少し離れて歩こう。アルは、剣を抜いていつでも戦えるようにしておくんだぞ」
「ええ、分かったわ!」
アルティシアの持っている剣は、彼女の腕の長さぐらいあるもので、先は細く尖っていた。昔、父親のジョンディアが愛用していたものなので、グリップのところは少し色が剥げているが、頑丈な作りで、敵に与えるダメージも大きそうだ。
ボク達は、母親のハーティからも贈り物をいただいた。防具と鎧だ。
鎧と言っても、基本は短パンと短いシャツを着こなしているアルだが、膝までのブーツと長い手袋、それに胸や腰元を防御する薄いベスト状の上着だ。
それに片手で持てる小さな楯もいただいた。
いずれも、ハーティの魔法が付与されていて、ある程度の防御効果は期待できる。
ホクの方も肩から斜めに掛るブーメランフォルダーを貰った。これにも防御魔法が掛かっているので、相手の魔法攻撃などは防げるらしい。
それでも、剣の腕もなく、魔法も使えないボクは、絶対にアルの邪魔になるんじゃないかと思っていた。
だからボクは、少しでもアルが戦いやすくなるように、情報を集め、作戦を考えることが役目だと思った。
家から10分ぐらい歩いたところにあるその森は、奥が見えないくらい続いていて、昼でも薄暗く感じるほど、木が生い茂り、いかにも魔物が住んでいそうな感じだった。
◆◇第2章 準備はゆっくりと【完】
・次話、第2章の総集編をお届けします。
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