第21話 戦いの準備
その夜、ジョンディアが帰ってきて、昼間の魔物と戦ったことを報告した。
やっぱり、彼も、ハーティと同じように、落ち着いた笑顔で、報告を聞いてくれた。そして、ボクが褒められてしまった。
少し、恥ずかしかった。
このままじゃ、ボクは、何の役にも立たない。せめて、アルを守れるようになりたいが………
「なあ、タロウ先生。人はそれぞれ持ち分っていうものがある。自分の力以上の荷物を持っても、必ずバテテ仕舞うんだ。
自分に合ったことをやればいい。
タロウ先生が、戦闘を苦手とするように、アルにも助けが必要なことがあるはずだ。
今は、急がなくていい。
ゆっくり、時間を掛けてほしい。
まだ、大丈夫だ…………」
ジョンディアは、昼間の魔物“フォクサー”の話を聞いてから、アルの稽古についてボクに提案してきた。
少しでも実戦を積み重ねる必要があるということで、近くの森の中へ修行に行く事にした。
その時は、ボクとアルだけで行くんだ。
今のところ、昼間の森だと、強い魔物は居ない。いや、居ないはずだとジョンディアは、言った。
「大丈夫よ、お父様。今度は、きちんと剣を持って行きます。しっかり、相手に負けないように頑張ります」
「まあ、そんなに頑張らなくてもいいからな。森の入り口付近で修行しなさい。その辺だと、強い魔物は出ないから。…………ただ、決して奥へは行くな、分かったな」
「はい、お父様」
ジョンディアは、優しい眼差しでアルを見つめて、“うん”と、頷いた。
「それから、タロウ先生の“ブーメラン”だったかな?……ちょっと貸してもらえないかな」
ジョンディアは、ボクの作ったブーメランを手に取ると、奥さんを呼んだ。
「ハーティ、頼みがある。タロウ先生の武器に、攻撃と防御の魔法を掛けてくれないか?」
「ええ、いいですよ。そんなに強い魔法は掛けられないけど、きっとこの魔法なら大丈夫」
「そうだな、よくわしも掛けてもらったよな……」
「ええ、あなたは、この魔法を有効に使えたわ……私達を守ってくれたんだもの。きっとタロウ先生も守ってくれるわ」
ハーティは、ボクのブーメランに祈りを捧げながら、手のひらをしばらく翳していた。わずかな淡い光が、ボクのブーメランに注がれていた。
「はい、タロウ先生、終わりよ。…………これは、決して武器を強くする魔法じゃないの。あなたの想いを強くするだけの魔法よ。大事に使ってね」
「はい、ありがとうございます」
ボクは、練習用にいくつかブーメランを作っていた。ほとんどは、アルに預けてあるが、今、ハーティに魔法を掛けてもらったものは、自分専用にして大切に身に付けて置こうと思った。
それから、ジョンディアは、何やら古い剣を取り出してきた。
「アル、お前にこれを預けよう。
これは、わしが昔使っていた剣だ。これを持って、修行をしなさい。この剣が自由に扱えることが第1の目的だ。
今までの木の剣とは違って、魔物を殺すことができる。ただし、間違った使い方をすれば、お前がヤラレルことになる。心して頑張れ」
アルは、しっかり両手で剣を受け取り、父親に深々と頭を下げた。
(つづく)
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