第20話 家族の証
≪わあぁぁぁぁーーーん………わあぁぁぁぁーーーん………≫
アルティシアの泣き声が、まだ耳に残っている。…………そう、あの時も泣き声は聞こえていたんだ…………。
ボクは、アルティシアを両腕で抱えたまま家に帰った。彼女は、魔物から受けた攻撃で、右足に怪我を負ってしまった。
歩くのさえ痛みが走るはずなのに、最後の攻撃では全力で走り回ってくれた。
ボクの出した作戦に何の疑問ももたずに。
…………ボクは、自分の情けなさにやりきれなかった。あんな小さな魔物一つにも、自分は腰を抜かしてしまった。
「大丈夫かい、アルティシア?」
彼女は、ボクに抱えられたまま、じーっと顔を見ていたが、ボソッと呟いた。
「センセ……もう、“アル”って、呼んで……」
「え?だって、さっきは魔物との戦いで、焦っていたから……」
「だって、お父様もお母様も、“アル”って呼んでくれるのよ」
「それは、家族だからだろ?」
「…………ねえ、タロウセンセ…………あたし達は、もう家族じゃないの?」
「ん、ん……。そうか、さっきは、あんなに必死に守ってくれたんだものな……」
「違うわ!守ってくれたのは、センセよ。必死で、勝つ方法を考えてくれたのよ……もう、家族じゃない?」
「そうか……わかったよ、アル!」
「ありがとう……わあぁぁぁい…………これで、あたしにもお兄ちゃんができたわ……」
お兄ちゃんか……今度こそ頑張らないとなあ。もう、二度と子どもの悲しい泣き声は聞きたくないから……。
「あら、どうしたの?アル……お姫様抱っこなんかされて……いいわね……私だってたくさんジョンディアには抱っこされたのよ……」
家には、お母さんのハーティが帰って来ていた。
「お、お、お母様……それはいいいから……あたし魔物と戦っちゃたのよ!」
「はい、そうなんです。ボクが付いて居ながら、アルに怪我をさせてしまいました。申し訳ありません」
「あら、そうなの?……ちょっと見せて?…………あ、これなら大丈夫、ちょっとここにお座りなさい」
ハーティさんは、アルを食卓用の椅子に座らせて、足の様子を確認しながらヒールの魔法を掛けてくれた。
傷がみるみるうちに塞がった。
「お母様、痛みも無くなったわ…………ホラ、もう大丈夫よ!」
彼女は、椅子から立ち上がり、ピョンピョン飛び跳ねて見せた。
「良かったわね。あなたも、少しはヒール魔法の練習をしたらどうかしらね?お母さんの子なんだから、少しは、使えるはずなんだけど……」
「えー、前に練習したけど、全然ダメだったわよ」
「おかしいわね…………それより、タロウ先生、娘がご迷惑をお掛けしました。ありがとうございました。」
「いえいえ、ボクは、アルに守られてばかりでしたから……何もできなくて」
「お母様、そんなことは無いのよ。センセは、魔物に勝つ方法を一生懸命考えてくれたの。最後だって、センセがブーメランで援護してくれたんだからね!」
必死に、状況を伝えようとするアルティシアとは対照的に、ハーティさんは笑顔で落ち着いたものだった。
「そんなことは分かっているわよ。あなたは、実践経験が無いから、こういう時はきちんと判断できる人の言う事をよく聞くのよ。
今は、傍にタロウ先生がいるから、お母さんもお父さんも、何も心配していないの。いい、しっかりタロウ先生の言う事を聞いて、頑張りなさいね」
「はい、分かりました。お母様」
「それにしても、こんなところにまで、魔物が出るなんてね……ところで、どんな魔物だったの?」
「フォクサ―よ!とってもすばしっこかったの」
「そう…………あれは、夜しか出てこないし、しかも森の中だけのはずなんだけどね~…………でもね、フォクサーは弱いのよ、私でもやっつけられるの。アル、今度は実践が必要ね!」
「えーーー、だって、今日は剣が無かったから…………」
あははは……あれで、弱いのか?そしたら、20年前の『悪魔の1年』って、どれだけ凄い魔物だったんだろう。
(つづく)
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