第192話 浮橋の迷い
「よし……アル、持ち場に戻れ!」
「うん……」
あたしは、もう一度ガバチョさんの隣に行き、ヤミューでワニガララを攻撃した。あたしが、センセの傍に行っている時は、ヤーマ君が矢でワニガララを突いてくれたらしいんだけど、やっぱり攻撃力は弱かったみたい。
「アル、出来るだけ前の方の奴をやっつけてくれ!」
「うん、分かった!」
これで、馬車も前に進めるのね。さすがガバチョさん!
「あ! 岬が見えてきたわ! あれが西の大陸で、シリクナ岬ね!」
アナちゃんが、大声で知らせてくれたの。
すると、センセも一際大きな声で、指示を始めたわ。あたしは、少し心配したけど、元気なセンセの声を聞いて、安心したの。
やっぱり、センセは戦いの最中に的確な指示をしてくれるのが、一番の役目なの。
「よし、アル。馬車の前にはもうワニガララは居なくなったぞ。ガバチョさん、馬車を急がせてください」
「おう! タロウ、アレをやってみるのか?」
「はい、ガバチョさん。一度試しておこうと思って」
「よーし、分かったぞ! しっかり掴まってろ!」
何だろう、センセとガバチョさんが、嬉しそうな顔してる。それに、ヤーマ君も何か準備を始めたわ。
「タロウ、こっちの準備はできたぞ! 防御網を外してくれ!」
「よーし、待ってろ……」
センセが馬車を覆っていた超硬度自在防御網を手繰り寄せて魔法のカバンに仕舞い込んだわ。ジョビョンにはまだワニガララが居るのに大丈夫なのかしら?
「ガバチョさん、次はこれを頼む」
ヤーマ君が準備したもの? 何? 大きな塊だわ……あ、これ、あたしとセンセで集めた獣の肉だわ! まだ、こんなにあったのね。それをガバチョさんが受け取って、両手で振り回したと思ったら、遠くのジョビョンめがけて放り投げたの。
遠くまで飛んだわ! ガバチョさんの力も相当なものね。伊達に毎日石を砕いたりしてないわね。
見ると、その肉に魔獣が群がって行ったの。やっぱりジョビョンにいる魔獣って肉が好きなのかしら?
「よし、最後は、これで頼むぞアル!」
センセは、あたしに新しい矢を渡してくれたの。大きさは同じなんだけど、先っちょに何か丸いものが付いてるの。きっと、ガバチョさんの新しい武器ね。
「アル、あそこで肉を漁っているワニガララの群れに向かってそいつを打ち込んでやれ!」
「分かったよ、センセ! いっけーーーー!」
狙いは正確。新しい矢は、真っすぐにワニガララの群れの中に飛んで行った。そして、次の瞬間、辺りは眩い光と轟音に包まれたの。
間一髪で、馬車はシリクナの岬に上陸し、ジョビョンの上から脱出できた。
轟音とともにジョビョンには人の背丈の倍以上もある大波が発生した。波は、浮橋をすっぽり飲み込んだわ。しばらくして、また浮橋は水面に漂いはしたが、あのまま自分達が馬車で浮島を走っていたら間違いなくジョビョンに落ちて底まで吸い込まれていたに違いないのよね。
「ねえ、何? 今の矢! ただの矢じゃないの?」
あたしは、ちょっとびっくりしてしまった。
「ああ、あれはな、爆裂石で作った矢じゃ。これで、ヤミューを使って、爆裂粉砕攻撃が出来るんだ」
「いやあーーすごかったですね」
センセが、遠くのジョビョンを眺めながら、額の汗を腕で拭っていた。あたしは、すぐ傍に行って、汗を拭いてあげたわ。
あんなに苦しがっていたのに、今は平気みたい。
いったいどうしちゃったんだろう?
あたしは、とっても不安な気持ちが湧きがってきていた。それでも、新しい西の大陸にあがることができたので、とにかく目の前のことに対処しようと思ったの。
「そうだな、これは広い場所じゃなきゃ、こっちにも被害が出そうだ」
ガバチョさんが、ジョビョンを見つめながら、そんな感想を漏らしていると、シリクナ岬の衛兵さんが、近寄ってきたの。
兜の間から見えた目は、ちょっと怖かったな。
「なんだ!お前達は!」
怒鳴るような大きな声だったの。
「あのー、はい、これ!」
あたしは、すぐにアサッペ岬の衛兵さんにもらった手紙を渡したわ。
そしたら、すぐに二人の衛兵さんは、頭にかぶった兜を脱ぎ、顔が全部見えるようにして、片膝を付いたの。
「大変失礼しました。エアルマの皆さんとは知らず、ご無礼を。わたくし達は、王都騎士団衛兵部隊シリクナ岬担当の者でございます」
二人とも頭を下げたまま少し震えているのよ。
「もう、ヤメテくださいよ。そんな大したことじゃないんですから」
「いえいえ、あのワニガララの群れをあんなに一瞬で全滅させてしまうお方が、何をおっしゃいます。やはり手紙にあります、次世代のエアルマ様に間違いはございません」
益々二人とも恐縮してしまってるわ。なんか、トンデモないことになったなあ。あたしって、そんなに強いかなあ?
あたしが強いんじゃなくて、みんなが作ってくれた武器が強いような気がするんだけど……
(つづく)
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