第19話 危機一髪
「ウワアアアアアアアーーーーーー!」
向かって来たフォクサーに、アルティシアは木の枝の剣を真っすぐに突き出した。
「ヒィーーヨーーーー」
と、遠吠えのような鳴き声を上げ、フォクサーは剣を右に避けた。お陰で、ボク達の脇をすり抜けて行ってくれた。
「また、来るわよ!」
アルティシアは、声だけは勇ましく上げて迎え撃つ体制を整える。
何てことだ。ボクは、一歩もここから動けないなんて!アルティシアの足で纏いじゃないか!どうしよう……必死に考えを巡らせるが、戦いの素人のボクには、何も思い浮かばない。
その時、アルティシアを見ると、右足首を左手で押さえていた。
「どうした?アル?」
「大丈夫、掠り傷よ……それより、次の攻撃に備えないと……」
気丈な事を言っているが、足首は痛そうだ。走って戦うのは難しいだろう。
「タメだ、アル、またフォクサーが向きを変えて、こちらを見ている……今度、向かって来られたら、防ぎきれないぞ!」
「分かってるわ!……でも…………」
ど、どうしよう……ボクは戦いのプロじゃない……でも、遊びなら……遊びのことなら誰にも負けない…………そうだ!
「アル!…………………いいかい?やれるかい?」
「任せて、センセ!……あたし、絶対やれるから!」
「よし、フォクサーが走り始めたら、すぐ行くぞ!………………よし!今だ!」
ボクがフォクサーの右側に向かって走り出した。フォクサーは、ボクを目がけて突っ込んで来た。
そこで、ボクは、持っていたブーメランを振りかぶって、思いっきりフォクサー目掛けて投げ込んだ。ブーメランは、フォクサーの右からから回り込んで飛んで行ったので、自然にフォクサーは、左に避けた。
そこに、一歩遅く左側から周り込むように移動してしていたアルティシアの目の前に、フォクサーが出くわす格好になったのである。
「……エイ!……とりゃぁぁぁーーーーー!!」
彼女は、回り込んだフォクサーの頭頂部を木の枝の剣で、思いっきり打ちのめした。
思った通り、よく鬼ごっこで捕まえる時の“誘導”攻撃で、敵をうまく動かす方法が上手くいった。
「ギャファン!……ウー…………」
と、妙な鳴き声をあげ、魔物フォクサーは、塵のように粉々に砕けて、消えてしまった。
「アル!やったなー!勝ったぞ!」
そう声を掛けたボク向かって駆け寄って来たアルティシアは、いきなりしがみ付いて泣き出してしまった。
「わあぁぁぁぁーーーん………わあぁぁぁぁーーーん…………怖かったよ~……………」
「アル、アル、どうしたんだい。あんなに勇敢にしていたのに……強かったぞ!頼もしかったぞ……アル、もう大丈夫だから……」
「だって、だって……また、センセに、…………タロウセンセに辛い思いをさせたらどうしようかって…………絶対守らなきゃって…………怖かったよ~……わあぁぁぁぁぁ~ん…………………」
「…………そうか、分かったよ。でも、アルは、強かったぞ……ボクも大丈夫だし、心強かったんだぞ…………」
「ホント?……センセ、そう思ってくれたの?」
「ああ、そうだよ!大丈夫だ」
ボクは、しっかりアルティシアを抱き締めた。そして、まだ震えている手をそっと包んで落ち着かせた。
(つづく)
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