第18話 初陣
朝ご飯を食べた後、ボク達は森へ枯れ枝を拾いに行く事になっている。
枯れ枝は、炊事場にある釜土の薪になるし、これから冬になると暖房としても活躍するんだそうだ。
もともと家族は、協力して生活をしているので、簡単な枯れ枝拾いは、娘のアルティシアの仕事になっている。
ボクは、アルティシアの毎日の日課である枯れ枝拾いを手伝っていた。
家から少し歩いたところに大きな森があり、たくさんの木が生えている。この木が、ブーメランを作った時の材料なんだ。
丈夫なのに、加工がしやすい。しかも、よく燃えるんだ。でも、すぐに灰になったりはせず、一度燃えた火はなかなか消えない。
本当に重宝する木なんだ。
「準備はいいかい、アルティシア?」
「ええ、大丈夫よ!」
拾った枝をまとめて運ぶための、背負い篭を一人一つずつ持って、森を目指した。
まもなく、森の入り口に差し掛かろうという時、木の陰から、何か動物らしきものが飛び出して来た。
「センセ!危ない!」
咄嗟にアルティシアが叫びながら、ボクを横に突き飛ばした。
「うわあーー。どうしたんだ!」
突き飛ばされたボクは、転がりながらアルティシアを探した。
「センセ、気を付けて!フォクサーよ。あれは、魔物なの!」
フォクサーと呼ばれる魔物は、四本足で体中が茶褐色の毛で覆われていた。低音の唸り声を上げながら、牙の生えた大きな口を開けて、ボク達の方を狙っているような動きを見せた。
「ア、ア、アルティシア……」
ボクは、腰を抜かしたような状態で転がりながら、情けない声を張り上げた。
「センセ!“アル”で、いいわ!」
「ど、どう、すれば……いいんだ!アル~」
「あたしだって、分からないの……だって、一度も魔物と戦ったことがないんだもの!」
そう言えばジョンディアも言っていた。『アルティシアの剣の腕は、申し分ないが、後は実践だけ』だって。
じゃあ、これが初の実戦って訳か?
ボク達だけで大丈夫なのか?
フォクサーが、狙いを付けるように、じっとこちらを見ている。アルティシアが、腰を抜かしたボクの傍に来てくれたが、今は剣を持っていないんだ。
枯れ枝拾いに剣なんか持ってくる訳がない。
フォクサーが、体を低くして、ボク等をめざして走って来た。体の大きさは人間の半分ぐらいしかないけど、そのスピードと鋭い牙は、恐怖だった。
「これでも、食らいなさい!ヤー!」
アルティシアは、背負っていた篭を向かって来たフォクサーめがけてぶつけた。
「ダメだ、アル。奴は、篭を飛び越えてしまったよ」
「大丈夫、これを見つけたわ!」
アルティシアは、近くに落ちていた木の枝を拾い上げ、いつもの剣のように構えた。
ただ、その剣を構える右手は、小刻みに震え、枝先が上下左右に揺れ動いている。左手でボクを庇い、目はフォクサーを睨みつけ、いつでも枝で叩き返せるように踏ん張っているアルティシアは、恐怖とも戦いながらギリギリの頑張りを見せていた。
再び、フォクサーは、牙を剥き、高々とジャンプして空高くから、僕らに突っ込んで来た。
「ウワアアアアアアアーーーーーー!」
目をつぶり、両手で頭を抱え、地面に腰を落としてしまった、ボクの叫び声だけが、木霊した。
(つづく)
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