第176話 鉱山の魔獣
うぎゃあああああ……ぎゃああああ……タスケテクレーー!
叫び声が聞こえたと思ったら、何人かの人達が洞窟から走って飛び出してきた。その人たちは、あたし達を見つけたらまた大声で騒ぎ出したのよ。
「お前ら、逃げろ! 早く逃げないと、魔獣にやられるぞ!」
「魔獣だって……ホントか!」
ヤーマ君が、びっくりした顔をして逃げて来た男の人を捕まえて問い質したの。
「何が出たんだ?」
その男の人は、明らかに鉱山で働いていた人ね。ガバチョさんと同じような作業着を着ていたし、それなりに体もガッシリしていたわ。そんな人でも、目を白黒させて、慌てながらヤーマ君の手を振りほどき、逃げようとするの。
「おい!何が出たんだよ!……鉱山には、もう人は居ないのか?」
ヤーマ君は、オドオドしているその人の胸倉を攫んで揺さぶりながら、もう一度聞いたわ。そしたら、なんとかその人もソワソワしながらしゃべり出したの。
「あ、あれは、レオンゲルだ!食われてしまうぞ!……お、奥で、掘ってるやつは、まだ居るんだ」
「何だ?お前達だけ、逃げて来たのか?」
ヤーマ君は、その男を睨みながら、怒りを露わにしていたの。でも、仲間を見捨てるなんて、許せないわよね!
「ヤーマ、レオンゲルっていうのは、どんな奴だ?」
「四本足の体が大きくて、鬣がある肉食の魔獣だ。チータガラナに似てるけど、足が遅いんだ。でもその分、顎の力が強いから、一度噛まれると離れないんだ」
もう、ヤーマ君は鉱山の中に入ろうとしているの。逃げ遅れた人達を助けるのね。
「ヤーマ君、待って!あたしが行くわ!」
「何、言ってんだ!魔獣だぞ!女の子は、後ろに下がってろ!」
きゃーぁ、ヤーマ君カッコいいわね。『後ろに下がってろ』だって!センセだって、そんな事言わないのに……ん?
あ、センセ、もう、ガタガタ震えてるし。でも、そんなセンセも可愛いわ!
「あーー、ヤーマ、そんな心配はいらねえよ。アルだったら、一人で十分だ。逆に、お前が居ると邪魔になるぞ」
もー、ガバチョさんったら、か弱い女の子を捕まえて。もう少し、可愛く言ってくれないかな~。
「何言ってんだ?ガバチョ。早く助けないと、仲間がやられちゃうんだ」
「じゃ行くから、ヤーマ君はあたしの後ろからついて来て。絶対にあたしより前に出ないでね」
あたしは、そう言ってすぐに鉱山の中へ走って行ったの。少し薄暗かったけど、所々に明り取りの松明が供えてあったので、足元は良く見えたわ。
「アル―、アル―……何て早いんだ! 俺の足じゃ追いつけないなんて。これじゃ、前に出るところか、置いてけぼりにされてしまう」
ヤーマ君、ついて来れるかな?でも、先を急いだ方がいいわね。
あ、あそこね。うっわ、いっぱいいるわ。なんか、奥の方を睨んでいるみたい。ちょっと、この洞窟の中は狭いので、あんまり剣を振り回せないわね。
「仕方ないか……」
あたしは、走りながら剣をゆっくり抜いて、真っすぐ前に向けて構えたの。
「うおおおおおおお!」
魔獣レオンゲルの背後で、大きな声を出してやったの。そしたら、奴らは一斉にこっちを向いたわ。この狭いところに、10頭ぐらいが固まっていたの。
「うりゃああああああああああ!」
もう一度大声を出すと、奴らはあたし目掛けて向かってきたの。あたしは、身を低くして剣を前方に向け構え直した。右手は剣の握りをしっかりと持ち、左手は肘を目の前で曲げて軽く剣を乗せるような感じ。
正面に向かってきたレオンゲルは、一直線に口を開けてあたしに飛び掛かって来たの。奴が目前に来たと同時により体を屈めて、喉元を狙い、剣を数回突いてやったの。
最初の奴に、あたしの突きは10回ほど命中したわ。
うぎゃぎゃぎゃぎゃあああああ~
洞窟に響く声を上げて、魔獣は消え失せたの。ここは、狭いから奴は横には広がれないわ。何頭いても、前からに攻撃に限られるの。
次から次に襲って来る魔獣レオンゲルも、あたしの突きで、あっという間に消し飛んでしまったわよ。
「ふうーっ……」
一息ついたころ、ようやくヤーマ君が到着したの。
「はーはーはー……ま、魔獣は……」
息を切らしながら、周りを見回しているけど、何もいないことに、ヤーマ君は少しびっくりしたみたい。
「ま、魔獣は、居なかったのか?」
「いいえ、居たわよ。そうね、やっぱりレオンゲルだったのかな。大きな鬣があったから……十頭ぐらいかな?」
「じゅ、十頭も?……どうしたんだよ、それ」
「あー全部やっつけちゃったよ!あれ、一頭ぐらい残しておけばよかった?」
「い、いや……魔獣なんかいない方がいいけどさ……」
「はーはーはー……あああはははは。……やっぱり、間に合わなかったか……そりゃ、そうだよな。……な、ヤーマ、言った通りだろ。アルに叶う魔獣なんか居ないんだよ」
遅れて来たガバチョさんが、笑顔で嬉しそうに言うのよね。なんかまるで自分が魔獣を倒したみたいに。やっつけたのは、あたしなんだけどなあ~。
「はーはーはー……あ、あ、るーー……や、やっつけたのかい?」
「あ、センセ! 終わったよ、もう魔獣は居ないから大丈夫だよ!」
最後に到着したのは、やっぱりセンセね。なんかスッゴイ疲れてそう。でも、頑張って走ったのよね、偉いなセンセ!
「お、お、遅くなって、……申し訳ない……」
センセは、息を切らしながら洞窟の一番奥に到着して、改めて周りを見回しているの。センセのことだから、きっと何か手掛かりを探しているんだわ。
「ヤーマ君、あの奥の岩は、ひょっとして動くんじゃないのか?」
「え?……あ、これは新しい鉱脈を見つけて掘り進んだ場所ですよ」
「この奥に何かあるんじゃないか?」
「よーし、俺に任せとけ! えい!うううううーーーん!」
ガバチョさんが、力を込めて大きな岩をずらし始めたの。ゆっくり、岩が動くと微かに明かりが漏れて来たわ。半分ぐらい動いた時、ヤーマ君が中を覗いたの。
「あ!みんな!……無事だったの!」
明かりの中からは、たくさんの人達が出てきたの。
「ヤーマ!助けに来てくれたのか!ありがとう……ありがとう……」
みんな、ヤーマ君の手をとって、嬉しそうに喜んでいたわ。この岩で塞がれた横穴の中には、三十人以上の人がいたの。みんな作業着を来た鉱山で働く人みたい。
不思議だったのは、みんなヤーマ君と親しく話しているの。さっき、逃げて来た人達にはあんなにおっかない顔で怒鳴っていたヤーマ君も、今はとっても優しい顔を見せてるわ。
「ホントにありがとう、ヤーマ。君が来てくれなかったら、俺達はみんな魔獣にやられるか、この穴の中で飢え死にするところだったよ」
助かった人の代表のような人が、嬉しそうにヤーマ君の手をとってお礼を言っていたの。そしたら、ヤーマ君は、頭を掻きながら、あたしの手をとってみんなの前に引っ張り出して、紹介してくれたわ。
「いやあーー、魔獣をやっつけたのは、このアルっていうお嬢さんなんだ。俺は、何もできなかったんだ」
「ええ?そうか、こんな可愛いお嬢さんが。あの魔獣を一人で……。本当にありがとう」
なんか、みんなからたくさんお礼を言われちゃった。
そんな話をしていたら、センセがちょっとすまなそうな顔をして言ったの。
「なあ、ヤーマ。アルが全部魔獣をやっつけてしまったから、衛兵のみなさんが来ても無駄足になってしまうな」
「え?タロウ。どういうことだ?」
「だって、先に逃げた人達は町に行って衛兵に報告するからさ……」
「そっか、センセ。あのゴツイ人達が、魔獣をやっつけに来るんだね!」
あたしは、戦う味方がいっぱいいる方が楽できるのでいいんだけど……。
「どうかな?……あいつら、あのままどっかへ逃げてしまうかもしれないし。……町へ行って衛兵に報告したとして、あいつらが助けに来るとは思えないな」
あ、またヤーマ君がちょっと怖い顔してる。なんか、ヤーマ君は衛兵さんもさっきの逃げてきた人達も信用してないみたいね。
(つづく)
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