第17話 二人だけの食事
「センセ、おはよ!」
「ああ、アルティシア……今日は、君が朝食を作っているのかい?」
いつもは寝坊が多いアルティシアなのに、一人前にエプロンなんかつけて、一人でご機嫌に何やら作っていた。
この家は、そんなに広くはないが、居間と炊事場は分かれている。居間から炊事場は見えるように一部の壁が腰ぐらいまでの高さしかない。
まあ、ボクの世界で言えば、カウンターのような仕組みで居間と炊事場が仕切られている。もちろん、一部が開閉式の扉になっていて居間と炊事場は、出入りができるんだ。
「センセ、ちょっと待ってね。今、美味しい朝ご飯作るからね!」
「うーん。それは、任せるけど、ハーティさん達は居ないのかい?」
「ええ、お母様は近くの農園に手伝いに、お父様は遠くの村の見回りに出かけたのよ。だから、朝ご飯はあたしが作っているの」
この世界でも食べ物は、いろいろある。
もちろん火を使って、焼いたり煮たりするんだ。ただ、火は釜土のようなところで、森から拾ってきた木の枝を燃やしている。
村の周りにはたくさんの森があって、薪には不自由しないようだ。
「アルティシア、何か手伝おうか?」
ボクは、炊事場を覗きながら、声を掛けると、彼女は笑顔で手を振って答えてくれた。
「ありがと、タロウセンセ!……でも、もうできたから、大丈夫よ」
そう言って、アルティシアは居間のテーブルに、食事を運んで来た。
ちょうど、ボクの世界ではパンと呼ばれるものと同じような食べ物を焼いてくれていた。いつもは、母親のハーティが作ってくれるのだが、見た目は同じようにできていた。
ただ、いつもとはどこかちょっと違うような気がした。
「えへへ、今日はね、パンヌにマスケットを載せてみたの。美味しいから食べてね」
緑色で、親指の先ぐらいの球体だった。
それを半分に切って、焼いたパンヌに敷き詰めている。他にも家畜の乳を温めてくれていた。
そのマスケットと呼んでいるものは、甘い果物で、とてもパンヌには相性がいいように思われた。
「これはね、今ごろしか穫れないのよ。だから、お母様はなかなか作ってくれないの。でもね、今日はこれを使っていいと、言ってくれたので、ちょっとタロウセンセに、奮発しちゃった」
見ると、ボクのパンヌに載っているマスケットは、アルティシアの2倍ぐらいはあった。
「いいのかい、こんなにボクが食べても?」
「大丈夫よ、あたし、センセに美味しいものを食べさせてあげたいの。
…………それにね、今、お母様が行って収穫しているのは、このマスケットなの。たぶん、お土産にまた貰ってくるはずよ!」
初めて、2人だけで食べた朝ご飯は、とても甘く、美味しい物だった。その甘さのためか、テーブルは、とても楽しく笑いが絶えないものであった。
(つづく)
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