第13話 それよりも大事な事
「これは、わしの宝物なんじゃ……」
大きな胸の傷をそう呼んだジョンディアは、どこか愛おしそうにその傷を撫でた。
「わしは、王都から次世代の勇者を探すべく一人で旅に出たんだ。
ちょうど5年になろうかという時、小さな村に差し掛かったんじゃ。本当に小さな村だった。エルフの家族が数組暮らしていたんだ。
ところが、その村が魔物に襲われていたんだ。
スウィーソドラゴンだった。立った1匹だったが、奴は魔王の腹心とまで言われた奴で、とてつもなく強かった。
口から吐くスウィーソ弾は、炎に包まれた火薬弾とも言われ、爆発力もすごいが、何よりその球を跳ね返せないんだ。
炎に包まれているから、楯で防ごうとしても、楯を炎で溶かしてしまう」
「そんな強いやつが生き残っていたんですか?」
「分からんのだ。
……魔物の手下は、すべて倒したはずじゃった。
……しかし、奴は生き残っておった。
この村を守れるのは、わしだけだ。
奴のスウィーソ弾を除けながら戦ったんだが、避け切れず1発食らってしまったんだ。
それでも、わしは胸に炎の火薬弾を抱えながら、最後の力を振り絞って、その炎を自分の剣に移送したまま切り込むことができ、奴を倒したんじゃ」
「その炎が、ドラゴンも溶かしたんですね」
「ああ、そうなんだ。……しかし、わしに当たった火薬弾は、炎は無くなったがそのままわしの胸で大爆発したんだ」
「だから、そのような傷になったんですね」
改めてジョンディアの胸を見ると、ちょうど心臓の辺りが切り刻まれたような跡になっていた。
「でも、今こうしているということは、無事だったんですね」
「いや、その時は、心臓も吹き飛ばされ、まったく生き延びることなどできない状態だったんだ。
…………ところが、そこに居たエルフが、全身全霊をかけてわしにヒールの魔法を掛けてくれた。
ただ、とてもひどい傷だったので、通常の方法では回復できないと考えたエルフは、自分の命も魔法に込めて、ありったけの力をわしに注ぎ込んでくれたんだ。
それでも、わしは10日間ほど生死の境を彷徨っていたそうだ。その間も、彼女はヒールをかけ続けてくれたんだ。何とか11日目にようやく気が付き、わしはこのように生きていられるという訳だ」
「良かったじゃないですか……それで、その方は?」
「あ、うん……わしの妻じゃ…………
ただな、その時無茶なヒールを行ったせいで、彼女は能力の半分以上を失ってしまった。そればかりか、意識がないとヒールの効果が表れないようになってしまったんだ」
「それで、ボクの時は、あんなことを言っていたんですね」
「本来の彼女の力なら、タロウ先生ぐらいのケガなら、あっという間に直せたんだがなあ」
「いいえ、それでも助けていただいたことに、変わりはありませんから、ボクはとても感謝していますよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると、助かる。…………だが、わしはその怪我のこともあって、それ以来ここに住み着き、勇者探しはしていないんじゃ」
その時、不意に後ろから声がした。
「そんなことは無いんですよ。
昨日だって、あなたは近隣の見回りと言って、私達やまわりのみんなのことを考えてよくやってくれています。
きっと、次の勇者さんだって、そんなあなたの気持ちに答えるべく、向こうから現れてくれますから、心配はいりませんよ」
奥さんのハーティが、帰って来ていたのだ。
その顔は、微笑みを湛え、慈愛に満ちていた。きっとジョンディアもハーティも、お互いを大切に思う気持ちを理解していることが分かった。
「さあ、晩ご飯にするわよ、アンが支度してくれているわ。早く家に戻ってね、美味しいものいっぱいもらってきたのよ、早く、早く…………」
それに笑顔で答えるジョンディアも、優しく彼女を見つめていた。
◆◇第1章 開いたのはどんな花?【完】
・次話、第1章の総集編をお届けします。
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