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第11話 あの戦い

「お帰りなさい、ジョンディアさん」


「ああ、ただいま、タロウ先生。すまないな、留守にすることが多くて」


 この家の主、ジョンディアは、あちこちの見回りと言って、毎日出かけている。時には、泊りがけで出かけることもある。

 いつもたった一人で出かけるので、残る者達は、心配が絶えない。


 ただ、そのことは誰も触れず、いつも笑顔で送り出している。


 今日は、3日ぶりの帰宅になる。少し疲れた顔をしてるが、娘のアンディスを見ると幾分気が晴れるようだ。



「なあ、タロウ先生……わしにも“釣竿”を作ってくれないか?“釣り”というものをやってみたくなったんだが……」


 ジョンディアは、旅先での疲れを癒す訳でもなく、すぐにそんな願いを言ってきた。


「ええ、構いませんよ。余分にありますから、それを使ってください」





 アンディスは、母親と共に近所の畑に手伝いのために出かけた。この家にはボクとジョンディアだけなのだが、どうした風の吹き回しかと、不思議に感じた。


 湖の畔で、釣り糸を垂らしながら、ボクとジョンディアは、しばらく黙って湖面を眺めていた。



「……魔物が、また出ているんだ…………」


 急に、ジョンディアが話し始めた。




「ここから距離はある。……すぐに影響は出ないと思うが、またいつあの戦いがあるかもしれない」


 湖面を見つめるジョンディアの目は、険しかった。ボクは、何か嫌な感覚を味わっているような気持になった。



「……あの、聞きたいことがあるんですが……」


 どうしても、知っておきたいことがあった。





「何かな?」


「20年前、何があったのですか?……ボクは……覚えていないんです(知らないのだが、記憶を失ったことにしている)」









「そうだな……タロウ先生は、知りたいよな……自分にも関わることだ」


 ジョンディアは、少し遠くを見つめながら、ゆっくりと話し出した。



「ここは、以前から“魔物”は、出現していたんだ。でも、怪しい森や人が済まない山奥なんかでしか魔物は見られなかった。

 しかし、20年前のある日を境に、いたるところで魔物が現れ、農地を荒らし、村や町を襲い、人に限らず全ての種族を殺し回るようになったんだ。


 みんなは戦った。どの種族も自分の能力を最大限に生かして、魔物と戦った。


 1年にも及ぶ戦いだった。わし達は、“悪魔の1年”と、呼んでいる」



「その戦いは、終わったのですか?」


「ああ、何とかな。

 すべての魔物を操っていたのは、“魔王”だった。

 その魔王と最後まで戦って勝利したのは、王様が各地を回って集められた“王都騎士団”だ。その中でも7人の勇者が自分の能力を最大限に発揮したのが、『魔眼城の戦い』だ。


 その後、各地で復興が始まったが、20年たった今でもこの有様だ」



「そうだったんですか…………」


 ジョンディアは、力なくも、さらに続けた。


「ところが、最近、また魔物の姿を見るようになってきた。まだ、悪さをするわけではないが、どうも気になる」




「…………じゃあ、また王都騎士団に頼めばいいのではないですか?今なら、その時ほど魔物も暴れていないようですし……」



「んー。……王都騎士団は、もう無いんじゃ。

 ……“悪魔の1年”の戦いで力を使い果たしてしまったんじゃ。

 かろうじて残った7人の勇者“セブンエアルマ”は、今後の戦いを見据えて、各地へ散らばったんじゃ。そして、最後の力を振り絞って、後継者たる次代の“エアルマ”を探しているところなんだ」



 ジョンディアの話は、真実を語っていると感じた。決して表には出さないが、内なる闘志は、ボクにも分かった。



「ひょっとして、あなたは、“セブンエルマ”のお一人なんですか?」



「ああ、わしは、“剣の勇者”ジョンディアなんだ……だが、今は魔物と戦うだけで精いっぱいなんじゃ。

 次の“エルマ”を探す余裕などは無くなってきている」




 ジョンディアは、自分の功績を自慢するでもなく、ただ事実だけを話してくれた。



(つづく)


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