第10話 村
「やあ、タロウ。今日は、うちで穫れたシュノミを持ってきたよ。一つどうだい?」
「ああ、シル君!ありがとう、いただくよ」
この村は、小さい。20軒あまりの家族が、畑で作物を育てたり、近くの森で狩りをしたりして暮らしているそうだ。
シルは、近所で暮らすバーン一家の青年だ。青年と言っても年齢は、よく分からない。彼の一家はエルフなんだ。父親は、20年前の戦いで亡くなり、今は母と2人の子どもで暮らしている。
この村は、エルフの他にも人間の家族も暮らしているが、どこの家も似たようなものだ。
ジョンディアによれば、昔はこの辺りにもいくつかの町があったらしい。しかし、20年前の戦いで、ほとんどの町は壊滅してしまい、その時難を逃れたものがここに集まっているそうだ。
幸い、この辺りは土地が肥えていて、作物はよく穫れるそうなので、暮らしには困らないらしい。
「シル君、すまないがもう一つ貰えないだろうか?アルティシアにもあげたいんだ」
「構わないよ。どうせ、残りはハーティさんに渡すものなんだ」
「ありがとう、シル君」
シルにもらったのは、シュノミという果物で、味はトマトにそっくりだ。どうもこの世界の植物は、ホクが暮らして来た世界と同じようなものがたくさんある。ただし、名前が違うので、慣れるまで違和感があった。
「おーい、アルティシア~…………シュノミを貰ったぞ~食べないか?」
相変わらず湖の畔で魚釣りをしているアルティシアだったが、シュノミという名前を聞きつけると釣竿を放り投げてこちらに走ってきた。
「ハアッ!……ハアッ!……ハー……タロウセンセ!……シュノミなの?」
息を切らして走ってきたアルティシアは、満面の笑顔で目を輝かせている。
「ああ、ほらっ、これ!」
「わあーい、わあーい!……やったー、早く頂戴!ね、センセ!」
「アルティシアは、そんなにシュノミが、好きなのか?」
「もちろんよ!このシュノミはね、甘くて、ちょっと酸っぱいところもあるけど、口の中で溶けていくのよ!」
確かに、トマトは熟れるとドロドロとなる部分が多くて、あの子達には人気だったなあ~
……どうしているのかなあ~
「センセ!早く、早く~」
「ああ、分かった、分かった…………かぶり付くのもいいが、服を汚さないようにな」
「わかってるよ、センセ!シュノミは、勢いよく噛むと、ピュッと中身が噴き出すんだよね~」
アルティシアは、ボクの座っている目の前で、仁王立ちになったまま、シュノミを頬張った。
緑の草原に、赤い実がやけに色鮮やかに感じられた。
(つづき)
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