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第6話 ウルルシカの里へ、飛べ

 三人は”船”に入ってまっすぐ、突き当りの扉をあけると広い空間に出た――アラタいわく操舵室――には小さな黒い球体が浮かんでいる。他にはイスとテーブルがいくつか並んでいるだけの簡単な構造だった。

「よく見てろ……」


 アラタが球体に触れると、緑色にかがやく紋章が浮かび上がった。周囲の床と壁にも光が走り、複雑な形を作ってゆく。それが部屋のすみずみに行き渡ると……船がズン、とゆれた。

「きゃっ!?」

「きゃあ!」


 船は”離陸”した。


 前方の壁がすっと透明に変化し、外の景色を映し出した。青い空が広がっている。ニニは思わず窓に駆け寄った。

「うそでしょ……雲が目の前にある……!」

 眼下に広がる雲と青空の境界を眺めながら叫ぶニニの横で、ウルルシカは床をなぞっていた。まるで文字を書くような手つきですらすらと。やがて彼女は驚いた様子で顔をあげた。その様子に気が付いたアラタは声をかけた。

「どうした?」

「わたくしが暮らしてきた里に、こんな伝承があります……」


 ウルルシカが話したのは幼い子供に聞かせる神話だった。


 天より来たる双子の女神が大地に種をまき、人間が芽吹いた……初めて立ち上がったひとりが祝福を受け、国を作った。様子を見ていた女神はとても満足し、方舟に乗ってどこかへと去っていった。しかし、女神の姉のほうは国をとても気に入ったため、100年に一度だけ戻ってくるのだ。人々の繁栄を眺めるために――


「子どもの頃から聞かされてきたもので、里には文献も残っています。数百年前の巻物と、今の本を見比べて、変化していく歴史を学ぼうとしたものです。この船の模様はまさに、巻物に描かれた”神の言語”にそっくりで驚きました……」

「その巻物はまだ残っているのか!?」

 アラタは直感した。その伝承は残りの3人につながる手がかりだと。

「はい。里に行けば見られるはずです」


「……よし、じゃあさっそく行こうぜ」

「え……今からですか……?」

「もちろんだ。そら、飛べぇぇぇぇ!!!!」


 アラタが球体をつかむ手に力をこめると、部屋の紋様がいっそう強く輝きだした。船体が大きくゆれ、加速してゆく。船は、空を滑るように、高速で動き出した。



「……で、ウルルシカの里ってどっちだ?」



***



 天を突くような岩山の裂け目の中、崖の表面はたくさんの色に分かれた岩肌が層を描いていた。この崖に、住居や道が吊るされ集落となっている。ウルルシカの里は、まさに自然に潜む隠れ里だった。

 船を着陸させる場所がないので、アラタたちは”正攻法”で訪れることにした。人ひとりがかろうじて通れるほどに細い足場をつたって登るのだ。高くなるにつれて道はますます険しくなっていく。




「あんた達、進むの早すぎだっつーの!」

 ニニが叫ぶ。震える足でゆっくりと”すり足”で進むのに対し、アラタとウルルシカは平然と歩いており、どんどん距離が開いていく。見かねたアラタが呼びかけた。


「だからおぶってやろうかって言ったんだよ。そのほうが早いぜ?」

「お断り――」

 そっぽを向いたニニの眼下に小さくなった森が広がる。

「えっ……ちょっと待って……木があんなに小さくなってる……!」

 か細い声のニニ。ついに膝をついてへたり込んでしまった。


「ほれ見たことか……しょうがねえな」

 ため息交じりのアラタはニニの前でかがみこんだ。背中を向けて乗れという合図。しかしニニは動かなかった。口を真っ直ぐに結び、深呼吸をして答える。

「……………………私、屋敷で食事作ってあげたでしょ。お代はウルルシカの里まで運んでもらう、これでどう?」

「わかったわかった。早くしろ」

 ニニは意を決して飛びついた。首に腕をまわし体重を預ける。しっかりつかまったのを確認してから、ゆっくり立ち上がる。


「よし、ウルルシカ、お前もつかまれ」

「わ、わたくしもですか?」

 アラタはまだ子ども。ニニとの体格差もあり背中は完全にうまっている、つかまる場所は――



 ウルルシカは顔を真っ赤にし、おずおずと前から抱きついた。

「行くぞ!」

 

 ドン!


 アラタは叫ぶやいなや、すさまじい衝撃とともに飛び上がった。岩山の頂上がみるみる近づき……通り過ぎた。今の三人を見上げた者は”空を飛んだ”と思うだろう。それほど高く飛んでいたのだ。

「さて、里は……あそこだな。ひとまず広いところに降りるか」


 民家が点在する場所を見定めて、広場と思われるところへ狙いを定め、急降下する。少女たちの悲鳴がこだましても、お構いなしに着地を決めた。もちろんふわりと、だ。普通の人間が大きく落下すれば一大事になってしまう。

 民家が点在する場所を見定めて、広場と思われるところへ狙いを定め、急降下する。少女たちの悲鳴がこだましても、お構いなしに着地を決めた。もちろんふわりと、だ。普通の人間が大きく落下すれば一大事になってしまう。

「着いたぜ」

 アラタから離れた二人はその場に座り込んでしまった。息切れが激しく言葉も出てこないようだ。特にニニは肩を大きく上下させていて苦しげだ。

 周囲を見渡すと、誰もいない。家々からは気配を感じるものの、皆が中で閉じこもっているようだ。


「……ひょっとして警戒されちまったか?」

 思えばいきなり空から降ってきた存在に対して当然といえる。だが、このままでは話が進まない。ウルルシカの回復を待って、彼女に紹介してもらうことにした。

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