魔法少女の体温-①
「…………と、いう訳です」
私は彼女から本名を聞いた。
そのあとに、私の引きこもり始めた理由を彼女――ヘティに問われた。
特に秘密という訳でもないけれど、やっぱりこれを話すことは少しばかり億劫ではある。
私の罪。
一生、背負ってしかるべき十字架。
彼女がこれを知ったらどう思うだろう?
「アリスのために」死んだ彼女が。
私は何だってしていないのに。
彼女は私のために死んだのに。
私があの時、路地裏の陰であなたを見ていたと、そんなことを。
乗り越えてはならない。
壊してもならない。
そしてもう、逃げてはならない。
この十字架はそう、背負ってしかるべき。
……恥知らず。
「これでお互いに公平ね。アリス」
「……それなら、いいんですけど。何でアーサーって名前を隠してたんです」
ヘティは口を手で隠し、複雑そうな顔でこちらを見る。
「まあ……できれば……隠しておきたかったよね」
「アーサー・ペンドラゴンなんて、今じゃ伝説のヒーローですよ?子どもの頃、何度種類の違う絵本を見たことか……」
「今はね。けどさ、伝説とか伝承ってのは、あるていど曲がって伝わるものだよ、良くも悪くも。私も、アリスとそう変わらない、人間だった。ペンドラゴンなんて冠、私には合わなかったんだよ。」
「……滅びの冬を鎮めたことは事実なんですよね」
「そうだよ、けど、払った犠牲はあまりに大きかった」
「…………………………」
ヘティはただそう言う。
私は何も言えない。ペンドラゴンというそのあまりに誇り高い名前を背負っている感覚なんて私には計り知れないし、彼女のその苦労に同情するなど、きっとただの傲慢だ。
「それに比べてアリスは、苦労したんだねえ。貴族は私の時代でも怒らせたら面倒だったけど、ここまで堕ちたのか。あのグズ共……」
……と、ここでふと疑問が浮かんだ。
「私の時代って言ってますけど、なんで人間のヘティが、今の時代……少なくとも1000年以上も生きてられてるんです?」
人間の寿命なんて、現代の魔術を使っても精々120年そこらだ。だがヘティの姿は若々しい。前回の滅びの冬で失われた、古代の魔法、その力によるものなのか、其れとも剣の力なのだろうか。
「腐っても私はその剣の持ち主だった女だからね。滅びの冬の封印のあとのこと。とある魔術師の力で魔法の眠りについた。またこの国に危機が訪れた際に、私が戦えるようにだ。……社会的には忘れ去られてたみたいだけど。まあ、まだ逝くにや早いってことさね。」
「……?だったら貴女がこの剣を握った方が……」
「いや、そりゃあ無理ってものだ。触ってみてよ、私の身体。」
私は差し出された手を握ってみた。