表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリス、あなたは魔法少女でいらっしゃいますか?  作者: 猫村有栖
魔法少女の罪と罰-アリスの学園生活?
29/40

或る妖精の魔術師の詩



………………………また、夢。


私は、剣を手にしてから夢を良く見るような気がする。

しかもその内容は、


何故……自分でも分かるのか分からない……けれど。

……それは決して、まどろみの中にいる私から来た夢ではなく、この剣が見せている夢だという、そんな、奇妙な確信が心から湧いてくる。


今度はこんな夢。どこかは分からない。


そのだだ広い草原で、騎士の彼女は魔物を倒していた。

その小さな背と比べると、かるく二倍は背丈が大きい魔物……多分、オーク種だろう……を。


目を……疑うような光景であるが、()()が、何の抵抗もできずに塵に返っていた。

彼女が剣を抜いてから時が経ったのか、彼女は……戦いに慣れている、戦士の顔をしていた。


彼女の青い目は、これから自分が断つ魔物を見定め。

そのちいさな身体は、自分がすべきこと、人を魔物から護るためにと、背がぴんと張られていた。


魔物を殺し呪いを断つ。

その彼女の金の髪は、セピア色の風に揺られていた。


あるいは、そんな風に私から見えただけなのかも知れないのだが。

相変わらずその剣、カリバーンは彼女の手に握られている。


「……ふう……これで今日はオシマイ……かなあ。」

「いいや……まだ感じる。まだいる」


返事を聞いて、分かりやすくぶすりとした顔を彼女はする。

「…………何匹」

「正確に言うなら答えは出せないが、30匹程度。」


彼女の口の端が更に下がる。

「……30匹くらいいるのお?……もー!!最近ますます呪いの出現件数が上がってなあいー!?」

「文句なんて言うだけ無駄……では?」


彼女は誰が見ても明らかにむすりとしている。

「……だって……私、ひとりしかいないんだよ?」

「当たり前では」


「いやうん。……ええ?分からないか……そう言うのじゃない。」

「どういうことだ?」


「……だからね、私だって倒しきれる魔物の数にや限りがあるってことよ?」

「ああ……人間の言葉は難しい。」

まるで自身が人間でないような言い草。


「……そういえばさ。妖精の国って、言葉とか、そんな文化とかは無かったの?」

「そう。私達は人間の魔法、魔術、それら全ての潜在意識の集合体に肉付けがされた、()()の到達点、それが妖精。言葉なんてものは、我々には必要は無かった。2000年前までは。

……あの、大戦争が起きるまでは。」


「2000年……前。想像すらできないなあ」

「貴女は生きていない。だからそう、それは当たり前。気を落とすな。」


その、謎で、しかも不器用なフォローに、彼女は笑う。

「……ふふ」

「な、何故笑う。」


「私、落ち込んでないよ。……君も勉強が必要だねえ」

「そ、そうなのか?人間は無知であることを自覚すると落ち込むものでは……」



「そんなことは無い。だって人間は、もとより何も知らないんだから」


「……もっと意味が分からない。ああ、貴女がそういう言葉使いで、その言葉の裏に意図があることは妖精の私にも分かる。学んだからな。だが、その意味が私には分からない。」


妖精……の彼女は、表情を変えずに話す。


「……人間は、学ぶ生き物。……生まれた時は、赤子は、この世に生誕したばかりの人間は……そう。()()知らない。ステーキに胡椒をかけると美味いってこと、コーヒーは眠気覚ましに使えること、排泄は便器で済ませることができるということ。」

「当たり前のこと…だろう?人間にとっては。」


「そう。だけれど、生まれたばかりの赤子はそれを知らない。そう、どんな当たり前のことでも、この世のことをなんにも知らない。()()()()()、人は学ぶ。自分の無知を恥じてる赤子なんかいやしないだろ?少年少女、青春、大人と移り変わろうと、それは変わらない」

「……()()()()()。」

「そう、答えは単純さ。()()()()()、人は、無知を恥はしない。」


「……けど、それなら。」

「ん?」

「ヒトは、どうして……学ぶのだ?」


妖精は初めて疑問の表情を浮かべた。


「……ね、意地が悪い質問かもしれないけど……赤子が持って生まれてくるもの、なんだ。」

「わ、分からない……」


「生まれたばかりの人間は、ただ意思だけを、それだけを持って生まれてくる。てのが答え。()()意思を、赤子は持っている」

「意…思………………」


「………意思がなければ、人間はそこらのからくりの人形となんら、ひとつだって違いやしない。人は無知だ。さっきの通り、知らないことが山ほど……いや、この青い空よりも広いくらいにある。私が、この空の下に生まれてきた理由なんて、そんな哲学的なことなんてさ、哲学者でもない私には分かりはしないけど。」


彼女は上を見る。

人間にはあまりに広く、そして青いその空を見上げる。


「私にはね、……人間には意思がある。私は私の足で、ここに立っている。それは私が決めたこと、()()の、私()()の道を歩く。どうするのか、それは、人間ならば自分で決める、そういうものさ。」

「……」


「だからね()()()()、妖精の魔術師。私の前に知らないことが現れても、私はにこりと笑うんだ。そう、恥じるのではなく、そして無知を嫌悪するのでなく、自分がいまだ()()()()()()を、それを()()()のだと。その満足感でね」


マーリン。

そう呼ばれた彼女は少し複雑な顔をしている。


「……私も……いつか……分かるのだろうか。」

「分かるさ。意思があれば、分かろうとする意思があるんなら、きっといつか、ね。……魔物退治。そろそろ行くよ、マーリン。」


彼女はマーリンが示した方向へ歩いていく。

「…………そうか。そういうもの……か。」


マーリンもまた、歩き出した。


まるで子供のような、そんな顔をしていた。

彼女は。

それは剣の記憶の中で見たマーリンの顔で、一番に満たされていた表情だったと思う。


―そう思わせる、初めての笑顔だった。

某ピンク魔法少女の映画が楽しみです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ