魔女、そして魔法の少女-③
鉄の冷たいドアを開けると、そこに少女が居た。
「………………は?」
つい間抜けな声を漏らしてしまった。
小学生くらいの、こんなにちいさな少女がなぜここに。
周りには他に誰もいないように思えた。
ただの屋上、少しばかりの落下防止のレールがあるだけで、目で見ても異常など感じられないように思ってしまう。
しかしそこには、絶対的な異常がある。肉眼でみえず、鼓膜でとらえていないだけ。私はこの少女の正体をとりあえず、探ることにした。
「こ……こんにちは……」
微妙に距離がはなれているお陰で、どんな声の大きさを出せば良いのかわからない。
「…………………………?」
少女には声が聞こえていないのか、ほぼ無反応に近かった。
こ、声が小さ過ぎたあ。
「こ、こんにちはー!」
「……………………!」
やっと少女に声が聞こえたらしく、少女の顔から疑問符が取れた。
「もお!はっきり喋って下さいな!聞こえませんでしたよ!」
「……ぐふうッ!」
……恥ずかしくてしにたい。
引きこもりの弊害がここに出た、
つらい!
みじめい!
うん!ほんとにい!
「ぐ……ふ?」
「ああ、いやほんと、なんでもないわ……よ!」
「………………あ……もしかして不安……なんですか?……………………だいじょうぶですよ……お姉ちゃんが守ってあげます……」
お姉……ちゃん……………………?
「ぐあっ………………!」
あー!
私を小学生と間違えた訳ねー!!!
確かに背丈は低いけど間違えるかなあー!!!?
「じゅ…………じゅうななです………………私…………」
「17さい……なんです?……あっ!…………まことに、ごめんなさい……!」
申し訳なさそうに頭を勢いよく下げる幼女。
ははは……
もっと、しにたくなってきたあ……
「…………ハンカチ……いるです……?」
「ありがとう…………幼女……」
はははみじめ、みじめ。
なんでこの世には身長を伸ばす魔法とかないのか、何人の命が救われるだろうそんなのがあったら。
少なくとも私は救われるよ、マジで。
「…………私、幼女じゃありません、もう3年生です……です」
おう、それ私の台詞なんだよ幼女君。
……勿論幼女にムーうとしても仕方がない。
仕方ないんだが!ね!
「そうなんだあ……おとなだねえ……うん……おとな……うん……」
「ばかにしてません?」
「…………してないしてない。
…………じゃあきみ、何か……オトナエピソードはある?」
「最近コーラも飲めるようになったんですよ!」
「幼女よおー!!!!!!!!!!」
生まれて一番の迫真のツッコミだったと思う。芸人が驚愕するレベルの。
「……大人ですう!じゃああなたのおとなエピソードは何かあるんですうー!?」
……私は脳をフルに回転させる。
「………………………………引きこもり……卒業……………………?」
ぼそりと回答。
「え!?ヒッキーじゃなかったんです!?」
「ぐばあーッ!!!!!!」
こ、こんのクソガキ、いや幼女か。
まことにごめんなさいとかそんな誤用をする幼女にそんな……そんな暴言を吐かれるとは…………あ
「……し、死んでるです……」
「ふふふ……これが…………言の葉の力だよ……幼…女……君……」
「…………べ……勉強になりました……です」
そうか、勉強になったのならなにより……
……いや全然何よりではない、私が!
というか、私、目的から大幅に脱線しているっ……
「……あ……幼女…………白いローブを被った金髪のお姉さん見てない……?」
「お姉さんです?……………………見てないです……」
……それは奇妙だ、彼女の反応は少なくとも時計塔から感じる。
だが、この少女は見ていないとも言っている。
あんな目立つ金髪、普通なら見たら覚えている筈だが……
「……本当に?」
「本当……です。」
少しだけ沈黙、だけれど。
「……私は、やらなくちゃいけないことがあるのよ、少女君。
だから見たのなら、正直に答えてほしい。
……本当に見ていないのなら仕方がないわ。
けれどね、その時には神に、誓ってほしい。」
「やらなくちゃ……いけない……こと……」
少女の口調が詰まる。
……この少女は、知って……いる。
「……私、嘘つきは嫌いよ。だけどね、嘘に嘘を重ねる女の子は、もっと嫌い。」
「……………………」
少女の顔が、崩れる。
今にも泣きそうな、崩壊しそうな目の奥で、何を見ているんだろう。何を思っているんだろう。
「大丈夫…………うん、私が守る……絶対に」
少女は震えている。
私はそれを抱きしめることしかできない。
「……私と同じくらいの背なのに……です……?」
こんな言葉を吐くのは、怖い。
「……うん。あなただけは……守るわ」
けれど、少女は震えている。
その理由がなんなのかは分からない。
けれど……その分、私も覚悟しなくてはならない。
この道を進むのに、この見えない道を進むのに必要なのは言の葉。
「私はもう、道を迷いたくはない。間違えたくは無いのよ。少女、私は神に誓うわ。貴女に誓うわ。私は貴女を護る。たとえ…………たとえこのまま死んでも、たとえ死んでも……貴女を護る。」
「……あなた……も……こんなに…ですか………震えているのに…………」
「…ばれた?……私も嘘つきね」
怖い。勿論怖い。嫌な想像ばかり出てくる。
だけど、逃げはしない、絶対に、私は逃げることだけは、しない。
「……私は道を進む。進むのよお嬢さん。それには貴女の言葉が必要なの。それなら私は命も惜しくはない。魂だって悪魔に喜んで、躊躇なく、そしてためらいもなく、私は売ってみせる。」
「お姉さん……さん………ほんとは……ほんと……は……」
もう、少女の涙が頬を伝っている。
少女の涙、それが地面に垂れる。
その刹那。
何か黒い、ものが、飛んできた。
つづくう!(CV小西)