魔女、そして魔法の少女-②
らせんの階段は長い。
時計塔はこのエグリスの中でも上から数えて2番目くらいには高い建造物だ。屋上まで階段で登るのには中々時間がかかる。
登る、階段を登る。
ところでいまさらハッと気づいた。
肉体強化も未だ持続している、その原因はこの服だ。
式典服のお陰で魔力の調子がすこぶる良い。
戦闘では魔法が尤も重要なピース。魔力の調子を整える式典服は、戦場では布の鎧と呼べる。
「魔力外装……よし」
重い赤色の光が体を包む、結界を自分に貼り付けたのだ。
魔力をただ貼り付けただけの結界だが、ないよりはいい。
雑に魔力を呼び出しただけだから詠唱が必要ないのがいいところだ。
魔法、そして魔術とは積み木のようなもの。
諸行無常。
『成った』としても、その形は永遠ではない。
たとえ今という一瞬のように儚く、
しかしだからこそ、強い芯がそこにある。
「―我、旅人なり、冬の旅人なり。春へ願う、魔法の少女なり」
詠唱でカリバーンを呼ぶ。
――光。
優しく、しかし大きな閃光があらわれる。
瞬間。
目の前に剣、黄金の柄の剣が姿を見せた。
……現代魔術と古代魔法。
これは表面上それとは似て、しかし本質的には大きく異なる。
現代の魔術では考えられない、魔法。
現代魔術にはいくつかの原則がある。それを真っ向から否定しているのが魔法。空間を跳ぶ剣なんてどうしたら、どう考えたらできあがるんだろう?この神秘には何度でも驚かされる。
浮かぶ剣を抜く。
剣は油を塗っているようにすると抜ける。
「……力を貸して、カリバーン。」
これで用意は完了した。
万が一、億が一のための準備。
……マーリンは呪いの調査に出かけただけだ。
彼女の魔力は私に伝わるようになっている。
私は彼女の魔力を感じ、彼女は私の魔力を感じられる。
もし、どちらか一方に危機になりうる異常が起こった時、その時は世界が滅亡する危機でもある状況と言えるからだとマーリンは言っていた。
その魔力が歪み始めたのだ。おかしい伝わり方をしている、魔力では無い、他の何かが彼女に入り込んでいる、そんなような、モノの魔力。
「ドア……」
目の前に鉄の大きなドア、私は階段を登り切った。
「……………………」
階段、後ろを振り返ることは、私にはできない。
そうしたらまた逃げる。きっと逃げてしまう、逃げてはまた、終わる。
「……私は、逃げない。………勇気を……アイリン……」
アイリン。
私は彼女の名を、半歩分だけ、私の尤も守るべき戒めとして、そうつぶやいた。
某安眠漫画のシルモスがすごい好きなんだけど、供給が少なくて私は飢え死に直前です