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アリス、あなたは魔法少女でいらっしゃいますか?  作者: 猫村有栖
魔法少女の罪と罰-アリスの学園生活?
23/40

理想郷はいまだ遠く


***


彼女は滅びの冬の調査をしに、リン中心部の都市に出ていた。

「1000年前とは、地形も地質やら、何もかも違うなあ。気分はタイムスリップものの主人公だ」


ごく普通の光景。

大衆が歩道を歩き、公園の木製のベンチで座っていたり、あるいは工事現場の柵の内側で木材を運搬する彼らの様子を見て彼女は思う。


この平和の青空の下で何を思うのか。彼らは。

例えばあの、小さく赤い車の女の運転手は、白馬の王子様だとか、突然の宇宙人の来訪だとかが自分の目の前に現れるような、そんな非日常を望んでいるかも知れない。

公衆トイレから出て来たあの黒く、高級そうな丈の長いコートを着た男は、もしかしたら明日のご飯にすら悩んでいて、コートを質に出すか否かだとかを考えるばかりで、日常の先頭の文字に、正非のどちらが付くべきかなんて考えてもいないのかも知れない。

もしかすればあの黄色い車でクレープを販売している、エプロンを着たあの店員は、このありふれた正しき日常に満足しているのかも知れない。


勿論、これは全てマーリン、彼女の想像であるが。

「あと、6ヶ月。それに冬が完全に目覚めてしまえば……」


…………それで世界はあっけなく終い。

しかしそんなことは、世界が滅ぶなんてことは、一般人である彼らには、想像すら不可能であろう。


彼女は滅びの冬を知っていた。

単純に、それの地獄を実際に見たことがあるからだ。



大量の呪いの塊、それが滅びの冬である、が。


しかし彼女には分からない。

その呪いは、何処から来るものなのか。


呪いとはほんの一部の例外を除くが、人が生み出す負の魔術のことである。その上世界を滅ぼす程の呪いとなれば、尚更人のものであることには間違いが無い。


誰かが誰かを呪う。

呪いとはそう発生し、魔物を生み出し人を殺す。

しかし滅びの冬は、その対象が今を生きる全ての人間…なのである。


しかし、人が人の世界を滅ぼすのか。

そんな意思思想を持つ人間が存在するのか。

その上、滅びの冬という呪いが何故、姿を消したり現れたりするのだろうか。

呪いは発生したら、邪魔を受けない限りは止まらない。

延々と呪いの代行者の魔物は、それをただ追う。

休みなどしない。

……ただ、滅びの冬の場合は例外であるのだ。


魔物が再発生したのは調べによると約50年前のこと。

しかしそれでは、950年間滅びの冬は休んでいたことになる。

呪いとしては、明らかにおかしい動きだった。


彼女の1000年前からの疑問である。

滅びの冬の正体……その本当の姿は、彼女でさえつかめていない。


その強大過ぎる呪いの力は、どうして発生したのか。

その呪いの力は、何故9と半世紀も休んでいたのか。

未だ、その全ては謎。


「考えても仕方ないか。」

と、マーリンはベンチからすくと立ち上がる。


「やっぱ、そう簡単にアタらないよね。呪いなんて幾らでも生きてる訳だし。」


彼女は街中の呪いの魔力を探知し、それを調査していた。


そもそも、滅びの冬はどう起こるのか。

……実は、発生の基準を厳密にするならば、もう発生している。


その証拠が魔物だ。

呪いは魔物を産む、その呪いが実際にあるんだから、もう発生はしている。


されど、その本体はまだ目覚めていない。

魔物はそのひとつの呪いから溢れただけのものに過ぎない。

つまり、滅びの冬の魔物は呪いの本体のごくごく一部ということ。

本体を、それが目覚めきることを人類はなんとしても止めねば、それで世界は地獄と化す。


「しかし、このノイズは……」

彼女はリンの時計塔に来ていた。

魔力探知を呪いに絞れば、街ひとつ分くらいの広さを調査することが彼女には可能。


そうして彼女は、この不気味な影を発見したのだ。


ノイズ。

そう表現するのが一番的確であろう。


時計塔の、らせんの階段を登る。

人気は無い。

マーリンの靴の音だけが、時計塔の中にある。


「…………………………」

彼女はいつになく警戒していた。

いやな気配……あまりに静かな時計塔の螺旋階段。



まるで、天国への、階段だと。彼女はそう感じたことだろう。


「いやな想像ばかり頭に駆け回る…考えすぎと、思いたいが……」

だって、そう。

その階段を登れば登るほど、彼女は。


「………………………………」

マーリン。

彼女の灯火は、風にさらされてゆくのだから。


彼女はアリスのことを考えていた。

魔法の少女、その力はまだ目覚めたばかり。


導かねばならぬ。

でなければ、彼女の運命は、また―。


――階段を登る。

警戒はしていたはず。


万が一、億が一。

そんなこと、彼女だって考えいた筈なのに。



ぐしゃり、と、鈍い音。

骨身に染みる音。




彼女の身体は、どこか、真っ黒な剣に貫かれて――

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