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アリス、あなたは魔法少女でいらっしゃいますか?  作者: 猫村有栖
魔法少女の罪と罰-アリスの学園生活?
19/40

南斗神拳をくらう朝-②

「本当ごめんマジごめんやばいごめん」

「いや……いいよ……ほんと……勉強になったから……」


彼女は床に頭をがんがんと打ちつけながら言う。

私は急いで式典服に袖を通す。式典服を着て気絶しなかったのは不幸中の幸いか。いや式典に遅れかねない不幸には変わらないが。


「いいから急いでスーさん!式典に遅れるのは不味いわよ……!」

「ごめんほんとごめん……」

式典服を着た彼女は謝罪を口にしながらカバンを手に取る。

夜の間に準備を済ませていたのだろう、バッグにはきちんと必要な物が詰められていた。朝が文字通り死ぬほど苦手(死ぬのは他人)という自分の性質を理解していたんだろう、用意周到な部分が彼女の長所だが、天秤にかければ長所が衝撃で軽く吹っ飛ぶくらいには短所が深刻過ぎないだろうか。


「いやあ驚いた、まっさかミカの寝相で世界が滅びかけるなんてね……」

彼女の言葉にスーさんの顔がみるみる真っ赤になる。

マーリン、彼女は気絶した私を運んで治療してくれた。

私が気絶した理由をスーにマーリンが聞いた時は、一体全体どんな顔をしたんだろうか……


「気をつけるんだよ。私も調査頑張るから、君たちも頑張って。」

彼女は家の玄関でスーさんと私を手を振りながら見送る。


彼女が言う調査とは、滅びの冬の調査だ。

いわく、滅びの冬にはいつも発生源というのがあるらしい。

滅びの冬が完全に目覚める前に叩くことができれば、それで一件落着完全ハッピーエンド。


これもまた、マーリンという彼女が存在する理由のひとつ。

良く考えられたシステムだなあと頭の中で感心しつつ、私とスーは全力で学校へと疾走する。


家から徒歩数分のリン中央駅まで走る。

住宅街を駆ける駆ける。踏切を飛び越え駅のホームに入る。

バスに乗っていたのでは到底間に合わないので、走り。

ホームの中の地下道の入り口に入り、魔術使い専用高速歩道を突き抜ける。

高速歩道、都市リンならばどこでもアクセスできる優れた交通手段で、その歴史は数千年に及ぶという。

地下道に入ると分岐がある。一番左の道は郊外、右は昨日私が行った中心街、真ん中に学校へと直行できる道がある。

その道の階段を飛び越えたら、後はただ突っ走るのみ……!


魔術で全身を強化し、高速をただ突っ走るのだ。安定して時速60〜70キロは出せるのだが、翌日の筋肉痛は必至の超リスキー魔術である。しかもその筋肉痛、私の場合は安静にベッドに横たわっていてもずっと痛いくらいのものになる、絶対やりたくなかったが致し方なし。


あと、15分。

均等に壁に並ぶライトは昼夜関係無くこのトンネルを照らしている。私はそのちょうどいいくらいの光るさで照らされている、コンクリの道をただ駆ける。

run run run 。


そして残り10分、残り約13キロ。

間に合うはず無い、速度を落とせ。なんて悪魔の誘惑にぐっと耐える。

ちなみにスーは、速度を私に合わせてくれている。私を置いて先に行ってと言ったのだが、


アタシがあんなことをして、先に行くなんてことができるくらい、アタシは冷酷薄情な女じゃない。と言った。

蘭々蘭。


そして残り5分、残り約6キロ……!

ただ黙々と走る。全力で走る。


4分、3分、2分、そして、残り60秒。

30、20、10、5、4、3、2、1……そして……!


……はい。普通に間に合いませんでした。

しかも、式典に。



隣でスーは真っ青な顔をしている。

その心情、想像するだけで私の胸の奥がちくちくする。


「……いいのよ。これで……いいのよ……」

私は肩を小刻みに震わす彼女に、そう……声をかけるしか無かった。

魔法学校の式典に遅れるなんて、普通なら軽く停学ものだろう。

はい早速……学生生活終わった……。


「式典に遅れるなど、さらに入学の式典だ。それに遅刻だなんて、余程芯の強い生徒と見える!……ああ残念だ、こんなに根性のある生徒を殴ることを法が許さないなんて……!規則ならば……停学も致し方ないものだ……………………!!!こんの、クソブス馬鹿小娘共ォーーーーー!!!!」


学校の大きな中庭、私の鼓膜が冗談なしで破れそうな声が響く。

スーに至っては、その顔はもう半分泣きそうな顔になっている。

「失礼をお許し頂きたい………………私が悪いのです……彼女が遅刻した原因は私なのです……!すべての遅刻の原因は私な…………」


「遅刻に良い遅刻悪い遅刻があるんなら、このアイリス=ヴェーカリーの暴力だって良い暴力に分類されるだろう……………………!!!原因も因果も過程も方法も関係無いわお笑いチンピラコンビ………………!!!!!貴様共の原因で、この式典が全て停止したのだ……!!!!!!!!千本針万死億年刑死に値する……………………!!!!!!!!!覚悟はあるのだろう…………………………!!!!!!!!」


スーのその青白い顔はもはや若干白目を剥き始めた。

……私の顔もそんな感じになっていたかもしれない。


……運が……悪かったと思おう……。

あと何時間説教が続くだろう…………そして停学か……………彼女の心境がますます心配になってくる………………。

このまま停学コースかあ。

ああ……道のりはやっぱり険しい。この道はイバラの道よりも、酷い悪路だろう……。


と思っていたところ。


「この唾タレ小娘共……!!!!校舎裏に来い………………!!!!!みっちりと貴様らにエグリスの根性のなんたるかを教え…………」

「失礼、教師ヴェーカリー。」

と……思わぬ所で横槍が入ったのだ。


「……何だね、ブラック令嬢。」

と。ヴェーカリーは説教の邪魔をした、小柄な彼女を睨みつける。


「ミス、ヴェーカリー。私がここに何をしに来たのかお分かりでしょうか?」

彼女は臆せず、いわむしろ逆に相手を怯ませる程の威圧を感じる、力強い立ち振る舞いをしていた。


その姿の彼女はただ高潔であった。


「……何だ。言ってみろ。」

ブラック家の令嬢である彼女、シェリーには、さすがの魔法学校の教師の彼女も強く言えないらしい。拳を握りしめて、怒りを殺しているらしいのが私の背筋にヒヤっときたが。


「私はこの学校に学問、そして魔術戦闘を学びに来たのです。貴女の良く、ありがたい説教を拝聴しにこの学校の土を踏んでいる訳ではないのです……」

「……貴様には、関係の無い話であろう……!」

もはや声に敵意……いや、殺意を隠さない教師ヴェーカリーはそう言う。大柄な彼女が、相当の怒りで肩を震わせていることが伺える。


「式典に遅刻した、その程度で熱心な指導をして下さるその熱意は、感涙の至りであるのです。」

「……その、程度、だと、申すか、?」

火に油、怒りに皮肉。


いつこんな度胸を彼女、身に付けたんだろう。

私の知ってる彼女はもっとこう……儚くて……なんかもっと……こう……。


なんて、つい思ってしまった。


「されど、私の未熟な鼓膜はそう頑丈で無く、その熱力では私は火傷をしてしまいます。遺憾の極みなのですが。式典への侮辱への罰、近年ではこの罰重さを疑問視する視点も存在するのです。」

「何が……言いたい……………………………………………………」

「哀れな彼女達を、その小さな目から見逃してはいかがでしょう。」


……ここまで歯軋りの音が聞こえるようだ。

彼女は、目線が合うだけで気絶してしまいそうな怒りの顔をこちらに向ける。

ブラック家は、この学校に多額の寄付をしているという噂である。

教師である彼女は当然、彼女の言葉に従わざるを得ないのだ。


式典で遅刻した人間を過度に糾弾する文化の意図は理解しかねるのだが。ここまでの怒りを噛み殺し、学校のために耐える彼女の立場というのは、つい同情してしまうレベルだ。

ただ、それは教師ヴェーカリーの視点に立って見た景色なのであり、私達の立場すれば、いくら彼女に感謝を述べても足りないくらいのもの幸運であり……素直に彼女に感謝できない、私の甘さから来るその私の思考というのは、私の心境からすれば些か複雑であった。


奥が見えるのではないかと思うくらい大きくされた鼻の穴で大きく深呼吸を彼女ヴェーカリーは行ない、発言する。


「確かに一理ある…………だがしかし問おう……なぜ……なぜこのふたりを庇う…………!」

明らかに一理に納得している顔では無い彼女。


「彼女が、友人だからです。」

そうカラリと彼女は返す。

そう返されては、文句のつけようも無いだろう。教師ヴェーカリーは、怒りを堪えるために握りしめたお陰で右手から血が垂れている程だ。

それでも我慢したのか、背を向け彼女は校長の隣へと戻って行った。

……校長は何事も無かったかのように、お立ち台の上で続ける。


隣を見るとスーの顔は、一面本当に真っ赤になっていて、もう涙が出かかっているくらいだった。

まあ彼女の心はさぞ複雑なことだろう……停学がなんとかなったのが唯一の救いか……


一方席に座るシェリーは、心底つまらなさそうに校長の話を聞く。

さっきの説教を聞いて、猫背で頬杖をついているのなんて彼女くらいなものだろう。

強かになったものだなあ……と心の底から思う。


以前の彼女は……令嬢らしさなんて一切無く、謙虚言葉を繰り返す、おどおどした子だった記憶。

その姿からは想像もできない、先程の威圧感。

どんな成長をしたんだろう?ブラック家の教育法が気になるくらいなものだ。


「………………それでは、式典の初めをここに宣言致します。」

そして校長の長々とした前置きが終わり、漸く式典が開始される。


「魔術師ヴェーカリー、前へ。」

どうやら彼女が式典を取り締まるらしい。

校長の言葉でお立ち台に立つ彼女。その左の手には、大きな杖が握られていた。


「……此れより、式典をはじめる。」


原初は2つ。星の地と海。ただ2つ。

ふたつ、それは永遠の時にさえ打ち勝つもの。

ふたつ、されど悠久など知らず。

ひとつ、植物が生まれた。

ひとつ、魂が生まれた。


矛と盾。

正と悪。

長と短。


人と魔法。


ふたつは交わるところを知らず、

ふたつの轍、常に互いを知らず。


されど原初、地と海にあり。


ふたり。

ひとりを知らずとも、全ては運命の従者にすぎず。


そしてひとりはここに。

その道に、呪いの炎が無きことを。


―そして願う、ここに願うはただひとつ。


その道に、祝福があらんことを。


……その詠唱に反応し、式典服の宝石が光りを発する。

その光は、儀式によってほんの僅かであるものの、皆の体内の魔力量が増加したことを示していた。


これが式典の意味である。

式典詠唱により、互いの繋がりを確かめ合うのだ。


繋がり。

私には、直視できない言葉だった。


「……これにより式典は終了となる。今日は解散だ。明日から魔術道具一式を持ってくるように。あと、図々しく式典に遅刻するほどの強い根性も持って来い。以上だ。」


そうしてこの停学の危機を私達は乗り越え、波乱に満ちているであろう学生生活の幕開けを式典は告げたのだった。

絶望した!UDKは2枚なのにミコケルとメリュ子が1枚も引けなかったことに絶望した!

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