南斗神拳をくらう朝-①
学校入学式の当日朝。
マーリンがリビングの窓を開けて部屋の換気をした後、いつもの通りに朝刊を広げて椅子に座る。
今日は私は式のために1時間早く起きた。朝型人間の私の体の構造に感謝。
私はキッチンで3人分の朝ごはんを作り、スーは自分の寝室でまだ寝ている。
私は幸い朝型の人間だったので、早起きはさほど苦では無い。
スーは真逆で夜型らしく、自分を起こしてほしいと昨日夜頼まれた。
彼女いわく、朝は身体が何にも使い物にならないくらい苦手らしい。
マーリンは……いや、関係無いか。推定1000歳の魔術師で、しかも1割妖精なんだし、人間の朝型夜型なんて型は当てはまるかどうかも怪しいし。
「今日は……おお、気合い入ってるね」
「昨日の夜から仕込んだからね」
ふふんと私は言う。
今日のメニューは味噌汁、白米、浅漬け、鮭のバター焼き。
私のお気に入りの献立で、特別な日のゲン担ぎによく作る。
……塩分過多という声が聞こえてきそうなのだが無視する。
練習して最近使えるようになった箸を右手に食卓へ。
「器用だなあ、どこで覚えたの?箸使いなんて」
「ネット。便利よねー、引きこもってもなんでもできたわ。」
「……私にゃ難しいな。私には想像もしたこと無かったよ、科学エネルギー主体の世界になるなんて。」
「不思議よねー、文明って。」
なんて会話を交わす。
……ヘティの時よりも数段楽。
やっぱり会話というのは……私の心理的に苦手だ。
人によって性格性癖性質が違うというのは当然だ、私はその違いを気にしすぎてしまうから。
会話を仕事にする芸人、コメンテーターだとかを心から私は尊敬する。
さて、私は朝食を食べ終わったので、スーを起こすことにしよう。
スーを起こしてくるとマーリンに伝えて、彼女の部屋に向かう。
朝が苦手……というのは私には理解できないところだ。
母父共に朝型だし、夜型の人間を見たことがないのもあるが、朝というのがどんな朝なんだろうか?彼女にとっての朝は。
私は木製のドアをおそるおそる押す。
「スーさん……。朝よー……」
ゆっくり一歩一歩づつベッド近づく。
ふんわり膨らんだシーツに手を伸ばし、剥ぐ――――!
「………………!?」
そこにはスーの姿は無く……ヒトひとり分くらいの大きさのぬいぐるみがあるだけで、消えているのだ!スーの姿が……!
辺りを見渡す私。
「な……!スーさん、どこに……!?」
私は物入れ、机、本棚、ソファーと視線を移し……そして、ついに彼女を……見つけた!
――――そこ、机の下に、ヒ惨な彼女の姿があった……。
何故か下の下着だけのあられもない姿で机の下に転がっている彼女の寝顔は、なんだか幸せそうだった……。
「……いや、なんでどうしてこんな格好に……………………?」
……とりあえず起こすことにした。
ゆさゆさと彼女を揺らす。
「あ………………おはよ…………ありスー…………」
「いや、なんでどうしてどんな経緯でこんな格好なんですかあスーさん……!?」
「……そうだね蛋白質だね……」
「プロテイン!?」
「あと60分の40だけ寝かせて……」
「ダメダメダメ!もうあと式まで1時間切ってるよ!」
「にゃーー!!!!しゃーーわっ!!!しゅわっちーー!!!」
彼女は頭が回っていないらしい。発言が支離滅裂…
「三角定規ィ!?肝臓学のアタシは木製なんだよ!」
酒でも飲んだのこの人?
「スーさん!?落ち着いて…!?」
「プロテインドリンク薬剤師検定5級を取ったことが無い奴は死ね!アタシの拳はその為にあるう…!」
駄目だ、諦めよう逃げよう。
「ごめんスーさん、私逃げるね」
スーさんから距離を置く私。
…すると彼女はなぜか殴りかかってきた。
「プロプロプロプロプロプロプロプロプロッ!」
「ちょつ…!スーさん…!?」
彼女のパンチは寝起きだからか弱い。
しかし、弱いパンチでも人を気絶させることくらい、暗殺術を知っている…いや、身体に染み付いている彼女にとっては造作もないこと。
「くらえーアタシの南斗神拳ーー!!!!!」
「逆ぅーーー!!!!!!」
彼女はお得意の暗殺術を繰り出し、私はそれをくらい、倒れた。
これ…………が夜型の恐ろしさ……だとは……知らな……かっ……
そして私は意識を失い。
40分後に目が覚め、式のため早めに起きた私の今日の努力は結局全部無駄となるのだった。
夜型、こわい。
ペルソナ3リロードがたのしみです。
特にイッツゴーイングダウンなうのみゃうみゃうみゃうみゃうみゃみゃうみゃううーの部分が頭から離れません。モッツァレラの歌並みに。