天才ロリコン予言魔術師の女?-②
「その服いいよねえ……。私も好きなんだけど、ぱーそなる、からー?ってやつに合わないらしくてさあ。」
と、聞き知ったことのある声が聞こえた。
「………………………………あ、予言の魔術師。」
やっと思い出した。
数週間前、古書店で会ったあの不思議な女性。
人の顔を覚えるのが苦手な私でも、こんな摩訶不思議な人間は流石に覚えている。
今思い返せば、彼女の言葉はまるで当たっている。
予言の魔術師と名告った彼女、伊達じゃないということかあ……。
「綺麗なお姉さん。とかでいいのに……」
当の彼女は……なんか、よく分からないことを言ってる。
……まあ、身長が高くてすらりとしていて、美人な顔立ちは確かに綺麗なお姉さん、であるのだが。
「確かに綺麗ですけど、あなた、予言の魔術のイメージがいかんせん強すぎるんですよ。だって、予言なんて聞いたこともないトンデモ魔法、始め適当言ってるかと思いましたもん。」
魔法少女……について彼女、やっぱり知っているのか。
「と言うか、やっぱり知ってるんですね。私のこと。」
「まあね、私物知りだから。」
「……物知りで予言ができるようになるんなら、もっと勉強してみようかな……。」
「ふふ。やめときなさい、予言?あんなあ半端な魔術、全然っ役に立たないし、無駄に気を使うし、見たくないものまで見えるし……ほんとろくでもない魔術よ?まあ、私が今貴女の隣にいる理由がそれなんだけどさ……魔法少女ちゃん。」
「理由?」
「予言よ。良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?立ち話もなんだし座りなよ。」
彼女は店の椅子に腰掛ける。
私も続いて向かいに座った。
……この年代で、こんな問いかけをする人間がいるんだろうか?
と、ふと考える。
いやあ、実際ここにいるんだけども……
「じゃあ、悪いニュースから。」
「近く、人が死ぬね。それも……多くの人が死ぬ。そういう地獄が見えた。それもここ、リンの街で、だ。」
……人が、死ぬ。
「……人が、死ぬ。」
「そう。私に見えたのは或る景色。それもただの退屈であってくれる日常じゃない。人が、燃えている。勿論ただの火事じゃない。大火災……事故か、悪意による故意か。それは分からないけれど……確かに人が死ぬね。このままだと。」
彼女はそう淡々と語る。
テレビの、事故の映像の内容の解説者のように。
「本当に……火事が起こるんですか?」
「さあね。私はそれを伝えるのが、私という或る魔術師……いや、人間としての役割。私はただ見ただけに過ぎない。だから、この予言をどう見るのか、聞くのか、知るのか、それはあなたが決めること。」
「そんな火事が本当に起こるなら……私が、早く止めないと……!」
「ふふ。言うと思った。さすがあの子の跡継ぎだなあ……」
「……世間一般、普通、こう言う反応すると思うんですけど……?」
「いや、まあ、あなた。自分で助ける気でしょう。他人任せじゃ無いところが貴女の良いところ……ってこと。」
「……あの子?……むーう……一体何物なんです…貴女…?」
「いや、まあ、それはおいおい。あ!良いニュース聞きたいよね?うん、聞きたいよね!」
褒められて悪い気はしないけれど、何か、明らかに茶を濁された。いっそここまでだと清々しいくらいで、このひとの正体を知るのは未だ……遠そうだ。
予言の魔術師の、謎のお姉さん。
私の目の前に現れる魔術師は一人だけだったはずなのだ。
聖剣を抜く魔法の少女の前にただひとりだけ、魔術師現れる。
有名な伝承だ。
ふたりでも3人でも無く、ただ1人だけと記されている。
マーリンと違う……2人目の魔術師。
マーリンだけでもまだ謎な部分があるのに、今度は魔法魔術全て謎の超うさんくさ女魔術師が私の前に現れている。
じゃあ、この女は一体……。
何十年生きれば、この数日間の内容の濃さを超えられるんだろう?
聖剣に、滅びの冬に、マーリンに、シェリーのストーキングに、謎の大火事に、謎の女予言者魔術師。
謎が謎を呼ぶので無く、謎の上にまた新たな謎が乗っかる。
随分と盛り付け方が雑すぎる。料理ならクレームものだ。
「まあ……それも聞いておきます。」
「私は今日まで、超稼いで来ました。今って良い時代よね〜。稼ぐ手段が無数にある!しかも私天才だから、株をちょちょいとするだけで稼げちゃうワケ。」
株……確かスーさんが大失敗したとか言ってたな……
「それで、コレよ!」
どん、と、無数の札束が、机の上に出される。
「……………………」
「……………………」
「…………………………もうちっと、良い反応しなさいよぉ。」
「いやあ、今更こんな……分厚いだけの札束じゃ……驚けないです……。」
「貴女にあげるわ。」
飲んでた紅茶を吹き出した。
「ヨシっ!これよ!私のからかい心の需要に答えたわねアリス!」
「……こ……こんな……大金…………まじですか。」
「まじまじ。それが私の役目だもん。」
価値的に見ると、札束一つで会社員の平均月収4ヶ月分くらいで……パッと見、束が7から9つ以上はありそうな気がする。
「役目……大金……」
「これであの式典服を買いなさいな。金なんて私が持ってても意味が無いし、…………聖剣の魔法少女がみすぼらしい式典服なんか着てる姿なんて見たら絶対……あの子に泣かれるし。」
「……あの子って……マーリン?」
「……………………………………………………いや?」
沈黙、その後の否定。
絶対何かある長さの沈黙でしたよね。これ。
「………うん。ありがとうございます。受け取ります。」
金は、簡単に責任の重さを可視化させる。
……その天下の回りものは、ただ紙切れ一枚でひとの原動力たりうる。
そこには当然価値があり、その価値分ひとの原動力は比例する。
私にはもう、行動しないという選択肢はもう無いのだ。
ガソリンを入れたのに走らない車など不用だろう。
一般人では到底手に入らない金額
そして、一般人が抱えるはずのない責任。
だから彼女のこの寄付には、そういう意味があったのだと思う。
「………………そこら辺、きちんと分かっているようだね、……ちぇ。受け取らなかった時の楽しみが減った…。」
「……何する気だったんです、受け取らなかったら。」
「trick or harassment」
「最早原型無いですね……」
「ちなみに内容は性的なあれよ。最近はやりの、わからせ?って言うの?性的いたずらと性的嫌がらせ。」
「……どっちもただのセクハラでは?」
「んで今私は、貴女に性的なご褒美を授けようと思うんだけど。」
「セクハラでは!?」
「ちっ。どさくさに紛れて触る作戦は失敗か……」
「……どこを触る気だったんです。」
「頭よ。私生え際フェチだから。少女のその匂いが好物なの、私。今からその魅力的な生え際を触るぞっ!」
「セクハラでは?いや、ロリコンでは?」
「何よお、まだ触っても無いのに。……ロリコン?私が?」
「今の時代言動でもセクハラ認定されるんです!何ですか、古本屋、服屋と来て次は法廷ですか?あと貴女は絶対ロリコンです!」
「分かった分かったよお、冗談冗談。ふふふふ。」
これが冗談言ってる人間の目ではないことは私でも分かる。
…この女、ロリコンだった。その上生え際フェチ。
うわー……知りたくなかった。
生え際フェチのロリコンの予言者の魔術師の女。
うわあ……酷い!前2つが強すぎる……。
「…………あ、そう言えば貴女……名前なんなんです。」
「ええー?名前必要ー?」
「ロリコン生え際フェチと呼びますよ?」
「新手の脅し……!いやあ……流石の私もこれはキツい!仕方無いなあ……じゃあ……」
彼女は少し考えて……こう答えた。
「私の名前は……うん。ヘティでいい。」
「へティ……?」
彼女のこの名前に、どんな意味があるのかなんてのは分からない。
ただ、彼女、女、と、名前も無かったのがもやもやしていたから。
彼女は人と決定的に違うところが一つある。
……温度が、無いのだ。
初めて会った時、何かおかしいと思いつつも気づかなかった。
その違和はひととして致命的なもの。
ひとでは無い、彼女は……。
……だから、だろうか?
私は彼女の口から、ひととしての証明として、せめてヒトらしい名前を聞きたかったのかも知れない。
いや、それは私自身でも分からない。
彼女を分からない。
分かるはずも無いのかもしれない。
ヘティと……彼女は名乗った。
――だからこう思うのは、まだ許されると思うのだ。