もうひとりの魔法少女-②
そんな会話をしていたら、家に到着。
「ただいま。マーリン。」
「おかえり、アリス。」
「アタシもいるよー」
と、隣で腕を振るスーさん。
「ミカも、いらっしゃい?いや、これから住むんだからお帰り、なのかな。」
「どっちでもいいでしょー」
と、スーはキョロキョロ辺りを見回す。
「アタシ、どこ行けばいい?」
「ああ……なら、ちょうどいい場所があるよ。」
スーさんにはとりあえず空き部屋に行ってもらうことにした。
初めて他人の家に居候すると、スーさんも嬉しそうだ。
荷解きを手伝おうかと聞くと、
「あー……ちょい危険物があってね、免許持ってないと取り扱いできないものがあるから大丈夫、気にしないで。片付けは得意だし。」
という。
「危険物?」
「地雷のタネみたいなアレだよ。」
「ああ、魔樹抽出飽和式火薬?スーさんのあのタイプだと32号モデルかな。」
「そう、多分そんな感じの名前。よくスラリスラリ出てくるなあ。流石魔術オタク。」
「それなら私も手伝えるよ。趣味で免許を取ったから、5年前。」
「凄いな!?というか、趣味で取るやつ初めて見たよ!すごいなあ。今日の試験が簡単に感じるわけだ……」
「いやあ私には、これしかないから……私には。他はまるっきりダメだし。」
と言いながら手を動かし初める。
さて、荷解きが完了し、スーは礼の言葉をくれた。
彼女は部屋で何か作業があるらしい。
私はスーの部屋を去った。
そういえば、マーリンはいつもリビングにいるが、睡眠はどうしているのだろう。
微妙に気になる。
いや、そもそも1000年生きてる魔術師に睡眠が必要か、なんて聞かれれば、不要ではないかと考えるのが普通だが。
とりあえず、やることもないので――
マーリンと話してみよう。
リビングのドアを開く。
そこで、マーリンがソファーで横になって寛いでいた。
「今日、大変だったらしいね。」
「まあ……ね。」
「まあ、座りなよ。ゆっくり話そう。」
私はそのソファーの淵に座る。
テーブルを見ると、お菓子と紅茶を用意してくれていた。
これは嬉しい。
私は紅茶と甘いものに目が無い。
甘い物と紅茶の組み合わせは無敵だと思う。
いや、本当に勝るものがない。
マーリンは気を使ってくれているんだろう。
その気持ちをありがたく頂戴する。
「高そうなクッキーだね……ほんと美味しいわ、ありがとう。紅茶も美味い……!淹れ方が上手いのかな?こんな紅茶、どこの店でも飲めないわよ。」
「ふふ、喜んで貰えたようで何より。自信作のクッキーが気に入ってもらえて嬉しい。」
「へぇ……自作なんだねクッキー…どんな風に作ってるんだろ……今度教えて?」
「勿論。ははは、これが今時ので言う女子会ってやつ?」
「確かに…………いいな、やっぱり友達は。」
その言葉のあと、マーリンは
「友達……か。」
なんて口にした。
きっと、マーリンには何か思うところがあるのだろう。
友達。
マーリンは千年生き続けた魔術師だ。
だから、友達だったり、家族との別れもきっとあったんだろうし、その過程は私にはとても想像なんかできない。
人は人。
私は私。
事情には、触れない方がいいのだろう。
それはそれとして、私はマーリンに質問する。
「ねえ、突然だけどマーリン。人ってさ、変わると思う?」
「変わる?どういう風にさ。」
「今日、昔の友達に会ったのよ。」
私は事情を話した。
「つきまといかあ。いかにも、不器用な子って感じがするねえ。」
「そうなんだけど、やっぱり、前までは優しい子だったから、心配で……。」
マーリンは、少し考えて返事をした。
「そうだねぇ。変わる、か。定義によるけど、まあ、変わるよ、在り方は。」
「……内面も?」
「うん、どうだろうなあ。人ってのは皆んなペルソナを持ってる。簡単に付け替えられる仮面のことだ。それはあくまで仮面だから、大概簡単に付け替えられる。だけど内面となるとそうはいかない。いや、どころかね、人は本質までは変われない。その在り方は変わっても、まあ、根本はいつまでも変わらない。」
「三つ子の魂百……みたいな?」
「ま、そんなとこだよ。その子だって、何かがきっかけで在り方が変わったんだと思う。しかし、ブラック家か…」
「知ってるの?」
「1000年前にもいたからね。まさか、ここまで潰れずにいたとはねえ。」
「1000年……そんなに。」
シェリーからは、由緒正しき名門だと聞いていたが、そんなまさか千年も続いている家系だとは思わなかった。
「しかも、悪名高いのも千年前からずっと一緒さ。政治介入、荒事、薬……そういう噂。」
マーリンは続ける。
「そんな家の令嬢と良く付き合ってたね。そういう子は、現代だといいいじめの的になるらしいじゃないか。私にゃ理解できないが。」
「シェリーは関係無いから、よ。」
家の噂なんて関係が無いこと、これは間違ってないと思う。
そんなのは気にも留めなかった。
「あ、そういえば、そろそろ新聞が届くころかな。」
と、マーリンはソファーを立つ。
「あ、届いてたからさっき取っておいたよ。ほらそこ。」
「ありがと。ふーむ…………何何…………おっ、ロンゴミニアドを抜いた魔法少女の名前が公表されたらしいね………………ブラック家の………………シェリー………………まさか…………」
「は?」
私は新聞を覗き込む。
「シェリー……ブラック………………魔法少女の決意……」
「はぁああああーーーー!!!?」
飲み物を口にしていなくて良かったと心底思う。
吹き出して、マーリンのその高そうなその服を確実に汚していただろう。
彼女がロンゴミニアドに選ばれた魔法少女……!?
私はまたも、運命とは、この新聞のように簡単に読めるものではないということを、また思い知った。