もうひとりの魔法少女
「随分と友人の趣味が悪くなったみたいね、アリス。」
と、不機嫌にシェリーは言う。
「はあ……で?結局何の用件よ。……まぁ、乱暴にしたのは謝るよ。」
スーはこう返す。
シェリーはそれでも、座って俯いたままだ。
私のただひとりの友人でいてくれた少女。
私は、彼女に対して2つの疑問を抱いた。
ひとつ。彼女が成長期であるのにも関わらず、全く4年前と変化が見られないこと。
これは本当に不思議で仕方がない。
私と彼女が教室で初めて出会った頃と、なんらその姿形は変わっていなかった。
そして、もうひとつ。
それは彼女の雰囲気が、4年前の彼女のものとは思えないほど、真逆に変化していたこと。
彼女はこんなに口が悪くは無かったし、例えるなら漫画やドラマに出てくるような、品のある箱入り娘、と言ったような人間だった。
決して他人を馬鹿にはせず、成績優秀品行方性文武両道。
私がいじめられていた時も、私を気にかけてくれていた。
そんな礼儀正しかった彼女の今の姿は、崖側に追い詰められたチンピラと表現する方が正しいように思えた。
いや、その姿は全く変わってはいないのだが、問題はその態度。
きっと、グレた娘を見ている母親の気持ちとはこんな感じなのだろうと思う。
「チィ………………!察しない馬鹿ってのは、これだから話しててヤンなるわ……!」
「成る程、じゃあ、察してほしい事柄があるわけだ。」
と、スー。
「……………………」
彼女はまた、黙り込む。
「ねえ、シェリー。」
「……何よ、アリス」
変わり果てた彼女のその態度。
……その原因は、やっぱり――
「………………」
「質問文が無いテストに正答を出せるの?はっきり、言いなさいよ、ばか。」
何も……言えない。
「…………ごめん。」
「何で、やっぱり、アンタが謝るのよ。」
彼女は、苛立ちを隠さない。
「成る程、ねえ。そういうことか。」
「何よヤンキー娘。何が成る程、よ。……もう、知らないわ、もう帰る!」
「あッ、お前……!」
シェリーは足早にこの場を去った。
スーさんが追いかけようとするが、それを私は止める。
「スーさん、いいよ。ありがとう。」
「いいの?ストーキングの理由を、まだ聞いてないけど。」
「……なんとなく、分かる、と思う。」
「そう。なら、大丈夫か。まーあ、変態とかじゃなくて良かった。仕事柄色々経験してきたけど、流石にこのパターンは初めてだわ。」
「……スーさん、賞金稼ぎだったよね?」
「知らないの?賞金稼ぎの『アルバイター』。色々あんのよね、この仕事。賞金稼ぎが依頼を受注して、解決に導くってあれよ。」
「へー……知らなかったなあ。どんな依頼が来たりするの?」
「例えば……殺し、密輸、薬物製造……」
「えっ!?」
「はは、冗談冗談。浮気調査が多いかな、アタシの場合は特性上。殺しもやってる奴もいるらしいけど、あくまで噂だからねぇ。本当かどうかはしーらない。けど、これを知らない人間がいるとは……世界は広い……」
「4年の間にそんな変化が……よくそんな商売を思いつくなぁ…」
「……パソコン、持ってたよね?ニュースとか見ないほうだった?」
「まあ、興味が全く湧かなくてさ、世間に。」
「すごいな、リアル浦島太郎じゃん。いや、女だから浦島子?」
「そうだね。」
いきなりの島子発言で、つい笑ってしまう。
「ははは。下んないねぇ。」
楽しそうなスーさんの笑顔のその明るさのお陰で、私の暗い気持ちが少し晴れた。
真っ直ぐで筋が通っていて、
よく本で説かれる信頼できる人間とは、こういう人間なんだろう。
なんてことを思う。