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アリス、あなたは魔法少女でいらっしゃいますか?  作者: 猫村有栖
魔法少女の罪と罰-アリスの学園生活?
13/40

汝付きまといなりや



どう足掻こうが、明日はまたやってくる。


緊張してなのか、中々寝られなかった。

お陰で瞼が少し重い。


むーう……こうしていると、引きこもっていた時の、好きなだけ寝ていた自分の自堕落な生活が恋しくなってくる。


ただそれでも、習慣になっている朝食作りは欠かさずにすることができた。


「今日は……なんだいこれ。スープ?嗅いだことが無い匂いだな…」

「味噌汁、ってやつ。健康にいいらしい。」

「健康に、ねえ」

「そうそう。あんな汚い部屋に住んでた私が気にしてること自体おかしいけどさ……あれ、そう言えば、あの部屋は誰が片付けたの?」

「ミカ・フラットと、私だよ。まあ、ほとんどミカがやっていたが。」


あの部屋をどうやって掃除したんだろう……?

私は料理以外の家事が下手だ。

それも、致命的に。

故に…いつのまにか取り返しがつかない程に部屋が汚くなっていた。


「じゃあ、スーにお礼、言わなくちゃなあ。マーリンも、ありがとね。ほんとに……」

「はは、あの部屋、信じられないくらいには汚かったからね。ミカは凄い。あの子、いい嫁さんになるぜ。」

「そーだね……」

と、このゆっくりした雰囲気のお陰で試験の緊張も少しだけ和らいでくれた。

マーリンって、何故か話やすい雰囲気なんだよなあ…。

「そう言えば、受験……そもそも私が通るの?勿論私、何ひとつ対策なんてしてないけど。」

「大丈夫大丈夫。もし君が落ちた時の最終手段があるから。まあ、私が何もしなくたって、君は受かるだろうが。」

「最終手段……?」

「ははは。」

と、マーリンが濁すので、それがロクなものでは無いことはわかる。


というより、だ。私が素直に試験に受かるという、マーリンのその自信はどこから来るんだろう。


私は根拠がよく分からない後押しを受けながら、愛しの我が家を後にした。


さてさて。

これは、私が魔法学校の試験会場に到着した後の話。

私は、待ち合わせていたスーと一緒に魔法学校の門をくぐった。


ここは、エグリスに7箇所だけある軍事魔法学校のひとつ。

近年の魔物増加から、

護身のため、

賞金稼ぎをするため……などの理由で、

戦闘を学びたい人間のための特軍事殊学校だ。


年齢不問であり、この学校の卒業生で無ければどんな人間にも受験資格があるのが大きな特徴。

それ故に、受験倍率は結構なものだった。

現役賞金稼ぎで、エグリス大学校魔学科出身のスーですら、若干自信が無かったくらいであり、引きこもりの私がストレートに受かるとは到底思えなかった。


マーリンのロクでもない最終手段に頼ることになるだろうな……と、私ははっきり言って弱気だった。


その上、慣れない人混みで、私は心も身体も緊張しぱなしだった。

やっぱり引きこもりに人混みはキツい。

私はスーにべったりだった。


初めからこんなに頼ってばかりでやっぱり情けない。

彼女に、私の姿はどう映ったんだろうなんて今更に考える。


というか、緊張のお陰で記憶がもうあやふや。

常に無だった気がする。


だが。

ただひとつだけ、はっきりしている記憶がある。


……今日、不思議な少女に出会った。


これは私が、なんとか魔術科の筆記試験を終え、昼食の時間の初め。

食堂に入り、自分が作ってきた料理をスーと食べていたときのこと。


「ふー……終わった終わった。あとは体力テストか。アタシは自信あるけど……アドラーは大丈夫?」

「ははは……」

と、マーリンのとは違うははは笑いを返す。


「まあ、筆記が一番重要らしいし……大丈夫だろ。きっと、うん。」

「そうだといいけどなあ。……筆記試験、簡単だったし、平均点高そうだしなあ……」

「あのテスト、大分難しくなかった?……私がアホなだけか。」

「……いやいや。スー、そんなことは……」


と。何気ない会話を交わしている途中。


そうしたら、突然なんとなく視線を感じた。


そして……私だけをじいっと見続けている少女の存在に気づいた。

ぎよっとして、席をガタつかせる私。

それでも、その少女は私をじっと見つめてくる。

「どーかした?」

「う、ううんいや、何でも。……そう!虫がいきなりきてさ、びっくりしちゃって。」

「虫?ああ……まあ、そう。」


初めは私の自意識過剰だと思った。

私の対人経験が少なさからきた思い込みかと思ったのだ。


だが、これから十分後。


そうではないらしいことに気づいた。

だってそうだ。いくらなんでも私を何十分も飽きずにじいっと私を見続けているのは明らかに異常だろう。

ここで隣にいるスーにそのことを相談しようとも考えたが、ここでスーにそのことを話ても何になる訳でもないし、心配をかけても悪い。と思ったので、少女のその不気味な視線を、私は我慢することにした。


その状態が休憩時間終了まで、まる1時間くらい続いたと思う。

膠着状態。


スーは気づかなかったらしいが、その少女は私をずっと付けていた。

試しに私が席を立つと、その少女も席を立つ。

私がトイレに行こうとすれば、その少女も後ろに少し離れて付いてくる。

私がスタスタと廊下を歩けば、少し後ろにその少女はシタタとついてくる。

この少女…なんなのだろう。


私と同じくらいの背丈に、黒のベスト、巻かれた金髪が印象的な、きれいな少女。


だが、試験が終わった時には、その時に少女は消えていた。


……流石に不気味が過ぎるので、帰り道、スーに相談することにした。


「……金髪で巻き毛の女に、ストーカーされてた?」

「そう。怖かったわ…………!」

「うーん、誰だろうなそいつ。心当たり……ある?」

「無いわ。あんな子見たことも無い……かも…」

「……かも?」

「……いや、もしかしたら、あの子…………どこかで会った事が……?いやでもなあ、あんな子見たことないと思うんだけど………………うーん……………………。」


本気で悩む私に、スーが声をかけてくれる。

「考えても仕方ないんじゃない?今のところはその女もアドラーを付けてないみたいだし、とりあえず今は、落ち着きな。ほら、こう言うのってよく、気のせいだった。ってパターンもあるじゃない?」


……気のせいかあ?と口を尖らせる私に、スーは苦笑いをした。


「まあ……その通りにするわ。」

「ま、最悪、何かあれば……私が守ってあげるから。金も貰ってるしなあ。てか、諸事情でさ、こういうゴタゴタの対処にゃあ慣れてるのよ。だから、アドラーも、気にし過ぎちゃダメよん。これから一緒に私も住むんだから、安心して?」


「……ありがとう、スー。て、ええ?一緒に……住む?」

「あれ?そういえば言ってなかったな……。私の家、この学校から遠過ぎるからさ、通うにはアドラーの家が丁度いいかなーと思って。

というより、これから

マーリンはいいんじゃない?って言ってくれたし、あとはアドラーの返事次第なんだけど。」

スーが受験生には似合わない旅行バッグを所持していた訳がようやく分かった。またまた突然のサプライズ。

なんかもう慣れてきたけれど。


「まあ、勿論いいよ。」

そんな事を言われても、私の返事なんてのは初めから決まっている。

運命とは全く読めないものだ。


―事実とは、小説より奇なり。

もし、三日前の私に手紙が送れるとして、同居人が二人増えるので部屋を片付けておきなさいよ。

なんて送っても、三日前の私は確実に信じない。


「やった。これから宜しくね。」

と、友好の握手。


やっぱり、こんな頼もしい女の子に憧れるなあと思った。

あんな最悪な出会いだったけれど、其れでも私のことを気にかけてくれる優しい人間。


スーのその握手からは、頼もしい母性のような……

そんな感じがした。なんて言ったら、彼女は怒るかな?


私達は、とりあえず家に帰ることにした。


そうしてその帰り道の途中。

また、その視線を感じた。

その少女の緑の瞳は、昼と変わらず私だけをじっと見つめている。


「アドラー。」

と、スーさんもその少女の存在に気がついたらしい。

「どうしよう……私に何か本気で恨みでもあるのかなあ……」

「ふふ、安心しなされ。アタシが守るって言ったでしょ?……まあ、少し待っててネ。」


と、スーはその少女にずんずんと近づき……

「オイアンタ。随分と目がいいみたいだけど、一体何をそんなにじろじろ見てたのか、私に教えて貰えない?」

と、全く臆さずはっきりと言う。

その少女はスーさんの言葉を聞いて、臆病なのら猫のように逃げ出した。


「あッ!待てコラ!」

と、同時にスーさんも走り出し……ついにスーさんの腕は、その少女の襟をぐっ!と掴んだ。

その姿は私が最近見た、映画のワンシーンのようだった。

流石、現役賞金稼ぎの身体能力。


その少女は、スーと頭2コ分くらいは違うのではと思う程に小柄な子だった。

スーは襟を掴み、その少女を持ち上げる。

少女は四肢をジタバタさせ抵抗する。

その姿は、わんぱくな子供に説教する親子のようだった。


「何よあんた!私が何かしたっての!?あとやめなさい襟を引っ張るの!伸びるでしょうが!」

「その何かをしてたから、私がこうしてアンタの襟を引っ張ってんの。言いなさい。何で彼女を付けてた?」


「つけて、なんか……ないわよ!」

と、反論する少女。

ただ、その言葉は、びっくりするほど棒読みだった。


「お前……演技が下手だなあ。」

「キーッ……!!五月蝿い五月蝿い五月蝿い!」

「あれ……?よく見たらアンタ……」


と、スーは少女の顔を見、何かに気づいたようらしい。


「どうしたの……スー。」

と、恐る恐る近づく私に、スーはこう返す。


「こいつ、ブラック家の令嬢だよ。」

「ブラック家……って、あの?」

「うんうん。()()ブラック家。名前通り黒い噂がある方のブラック家。」

「それを本人の前で言う訳!?私からすれば、あんたの方がよっぽど性格が真っ黒よ!」

「はいはい。で、そのブラック家の令嬢様が、アドラーに何の様よ。勿論、彼女へのパーティへのお誘いの手紙なんか、アンタは持ってないでしょう。」


「チィィィ……………………!」

と、少女の鬼気迫る顔。私はその気迫にちょっと押され気味だったが……


近くでその少女の顔を見て、はっきりと、私は思い出した。



何か?


それはあの、思い出したくも無い最悪だった、4年前の学生生活の私の記憶。


――シェリー・ブラック。


私が4年前、唯一友人だった、少女の名を――。


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