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1章エピローグ-時は迫りて


見知らぬ部屋で、私は目を覚ました。

ここは何処だろう。


……まさか、誘拐!?

なんてことをぼおとした頭で考える。

どうにも頭が回らない。

自分が何をしていたかすら、ぼんやりとしている。

何かひどい悪夢を見た気がする。

何か燃えあがる森の夢だったような気が……するようなしないような…。

その夢の内容を思い出そうとしても、頭にもやがかかっているみたいに思考が止まっている。

というか、本当にここは何処だ。


……悩んでいても解決するわけではない。

とりあえず、ドアノブを開けてみることにした。


……廊下の窓の外には、エグリスの夜空とリン州が誇るベン・タワーが見える。

あれ。ここは自宅だ。

窓から右下のこの位置にチラリと見えるタワーは、まさにここが自室前の廊下だということを証明している。

心なしか、いつもより少し綺麗なような気もするが。


つまり、だ。私が寝ていた部屋。

……これはまさか…………自分の部屋…………?


思わず自分のいた空間を振り返る。

……信じられない!…私の部屋は……綺麗さっぱりに……掃除……されて……いたのだ……!


私は本当に動揺していた。

埃やゴミは勿論のこと、

この部屋の悪臭すらきれいさっぱりに除かれているのだ!

この部屋は本当に汚かった。

はっきり言って、ここよりも動物園の檻の中の方がまだ清潔である。

本当に自慢出来る事ではないが、母がこの部屋に入った時には必ず蕁麻疹が出るし、父は悪臭で一回気絶したことすらある。


よし。いったん呼吸を落ち着かせよう。


……部屋をよく見れば、私の部屋であった痕跡があることが伺える。


あの左手の本棚は黄ばんでいたが、本来の白色を取り戻していた。

その上に、入りきっていない魔術書のタワーを構成していたものたちが積み重なっている。

埃の雪原が出来上がっていた木製の机と椅子は、その木目まで観察できるようになっていた。

ベッドのシーツと枕も清潔なものに変えられており、毛玉と私の毛だらけだった頃の姿はもうない。

部屋の窓枠に指をつつらせても、埃ひとつ見当たらない。


誰がこの部屋を掃除したのか。

私は動揺していた。

繰り返すが、動物園の檻の中の方がまだ綺麗に整えられているであろうと自信まんまんに答えられるこの部屋をどう掃除したのか。


ま、魔法か。

掃除の魔法とかでなんとかしたのだろうか!?

一体全体どんな魔法を使用したのだ!?


事情を理解するためにリビングルームに足を運ぶことにし、掃除された廊下を歩く。


そしてリビングのドアを開けて、そこには見たことのある少女がいた。


「あ、やっと起きた。」

マーリンはひょうひょうと。

「あーッ!超ハイパー汚部屋女、やっと起きたー!」

と、森で出会った少女は私に反応した。


つ〜………………

ああ……なんか全部思い出した。


今日の昼、私は森で見事に魔物の罠にかかり、この少女に大怪我を負わせてしまった。

そこから、変異ゴブリンにヤケでカリバーンを振り回していたら魔力切れで倒れたのだ。


なんて情けない。

ああ……穴があったら入りたいとはこういうことだろう。


スパルタマーリンにも責任があるぞー。

という頭をよぎった考えは、正しいだろう。

だけれど、どうしてもやっぱり自分が情けない……


すっかり罠にハマった上、そのお陰で少女が大怪我を負い、

それを助けようとして結局魔力切れで気絶したことの責任は自分のものだ。

「ご……ごめん。貴女の怪我は、私のせい……だから。」

うう、人見知りのおかげでこんな言葉しか捻り出せない自分を恨む。


「アタシは別に気にしてないから大丈ー夫。そこの魔術師がヒールかけてくれたから後遺症も残ってないし。」

と、少女は言ってくれた。


「ごめんよ。まさか人がいるなんて思ってもみなかった。彼女の気配遮断が優秀でそれを探知出来なかった。彼女の怪我の責任は私だ。すまない、アリス。」

と、マーリン。


「へえ。アンタ、アリスって言うんだね。アタシはミカ・フラット、スーって呼んでね。よろしくっ。」

「よろしく、私はアリス・アドラー…じゃあ、アドラーでいいわ。」

と、友好の握手を交わす。


「でさあ!」

と、唐突にスーは続けて、

「アドラーのあの剣、ホントにカリバーンなの?あの伝承の!?」

「お、お恥ずかしながら……」

「凄いじゃん!謙遜なんてしなくていいのに!カリバーンって、資格あるヤツしか抜けないアレじゃん。資格あるんなら、誇らなきゃアタシみたいな人間に失礼よん。」

と、スーは返す。

「スーだって……あの気配遮断と爆発魔術は凄かったわよ。並み大抵の魔術じゃないわね。多分、相当に努力を重ねた結果……。」

と、私。


私はこういう人が好きだ。器が広く前向きな人間。

その、私にない明るさというのは少し憧れてしまう。

「ホント!?良く言ってくれたわアドラーッ!馬鹿供はこのアタシの血と涙の尊き努力の結晶を理解しないから困るわ!アドラー貴女はって人は、資格に加えて観察眼もあるじゃーん!」


……私の面の上にはニヤついた顔があるだろう。

人に褒められる快感。ああなんて久しぶりだろう。

「あ、ありがとう…。」


今日一日のしくじりを忘れてしまいそうなくらいに嬉しい。

ここで私がもっと褒めてなんて思うのは仕方ないと思う。うん。


「しかもあの不意打ちは凄かった……!気配遮断ナシであの不意打ちなんてアタシにゃ到底無理。体の使い方もよく心得てるなあ。分かるよ、かなり勉強してんでしょー?」


マシンガンのように褒め言葉が、彼女の口から出て来る。

これが、誉め殺し……か…!


スーの焼けていた肌は、マーリンのヒールで本来の色に戻っていた。腕は筋肉質で、そこからスーの努力の積み重ねの大きさが伺える。スーの赤毛は、その明るさを象徴するかのようだ。


ミカ・フラット。

魔術もコミュ力も恐ろしい子……!


「っと、そういえば。」

スーは話を切り替えた。


「魔術師さんにはゃ感謝だね。森から私達を運んでくれたのもありがたいけど、あんな高度な治療を施してくれて助かった。見たことないよ、こんなのは。」

スーは腕を上下させながら言う。

「ほら。後遺症の一つも無い。ちっと怠いだけで傷の跡すら見えない。時を戻したんじゃないかって錯覚するレベルよ。」

「ふふ。ありがと。」

マーリンはそう返した。

「うん……本当に()()()()()()なんだねぇ。今日は奇想天外なことばかりだなあホント。」


今思い返すだけで痛みすら覚えるあのどろどろに焼け爛れていた彼女の皮膚は完璧に治っている。

それどころか数カ所骨も飛び出ていたのに、それもすっかり元通りになっている。マーリンが一見無茶な特訓を私に強制したのも、これがあったからだろう。魔術師マーリン、その力の強大さを私は思い知った。


「ほんとにね。マーリン……か。」

と、スーに同調する私。


「はは、私は私さ。」

「1000年前の古代技術も使ってるの?現代の魔法じゃこれは再現不可よ、負傷者に傷ひとつ残さず完璧に元に戻す魔術…これはぜひどんな魔法を使ってその中の魔術からどう式を構築したのかぜひ、ぜひ聞きたいわ、うーん心辺りとしては1000年前の滅びの冬からカウントしている新世紀から50年後のイギー文明の力で似たような物があった気がするんだけど、確か物体の時をきっかりと5秒だけ戻す魔術があったわよね、それの応用の連続使用か何かで傷を完璧に治す技術の確立が100年代され」


「お、おお。詳しいねアドラー。」

スーは私にこう言った。

しまった、私の悪いクセが出てしまっていたとハッと気づいた。


今日はやっぱり色々あったせいで調子が悪い。

…ということにしておきたい。私のコミュ力については。


「まぁ、それは置いておいてネ。それでね、これからの話をしたいと思う。」

と、マーリン。

「アリス。今日の実戦はどうだった?」


「うん。はっきり言って…ズタズタ。」


身体能力が足りないことは勿論のこと。自分に足りないものの多さ。理想と現実の差の大きさ。


私は、それを噛み締める。


「そうだね。アリスには足りない物が多すぎる。滅びの冬復活までの時間はもう少ない。それまでに力をつけてもらわなきゃ、人類全員御陀仏だね。」

「……ちなみ、それまで何年くらいなの?」

おそるおそる聞いてみる。せめて2年くらいは欲しいが。

「半年くらいだね。」

「え。」


あのスパルタ訓練の意味は、そういうことか……

マーリンは残り6ヶ月弱で私を鍛えなきゃならない。

そのためのあの無茶訓練。私は天を仰ぐ…


「……実感わかないねぇ。さっきアタシもそれ聞いてびっくり仰天くらくらくら〜だよ。伝承、ホントだったなんてホントびっくりにゃあ。」


「……冷静だねぇ、スーさん……」

「ま、実感湧いてないだけだから、多分。」


マーリンは続ける。

「だからアリスには頑張って貰わないと。その為にはまずは戦闘訓練。身体能力だって鍛えなきゃ。だから明日、エグリス短期戦闘魔術訓練学校の入学試験を受けて、そこに入学してもらうよ。」


またまたまた、突然過ぎる展開。


「…明日ァ!?」

「うん、明日。」

「……いやいや、どうするのよ受験資格とか。確かその学校、保護者に1等級以上の魔術師が必要……」

「ここにいるけど?」

…しまった、マーリンは1等級どころでは無いくらいの魔術師だった。


「また、スパルタ……」

「アリスには悪いけど、選定に思ったより時間がかかったから……ね。ホントは2年くらい前から始めてたんだけど、殆どの資格ある人間が断っちゃってさ。そのお陰で私、現代事情にも大分詳しくなったよ。」


まぁ、そりゃあそうだろう。

死ぬ覚悟で戦いに行けだなんて言われ、その上世界を救う責任を持てなんて聞いて二つ返事する人間は馬鹿だろう。その馬鹿が私な訳だが。


「まぁ、ということだから。うん。これからみっちり特訓だ!行け行けガンバレ魔法少女アリス!」

と、マーリン。こういういつも変わらないマーリンのノリは、もうなんか逆に羨ましい。


「……ま、アドラー、困ったことがあったらアタシを頼ンなよ。私だって死ぬのはヤだしね。試験のことはさ、私も明日試験に付いていってあげるから心配しなくても、多分大丈ー夫よ。たぶん。……試験途中で何かできるわけじゃないけど…ね。」

「あ、ありがとう、スー様……」

「別にいいんだよ。お金貰っちゃったし。まあ、また学生として生きるのもいいかなーって思ってさ。あと様呼びはやめろん。」

と、スー。


唐突な非日常。

滅びの冬の光景。

大怪我をした少女。


本当に波乱の……一日。魔法少女アリスのプロローグ。


さてさて、ああ今になって胃が痛くなってきた。

本当に私は、春の日を人類に見せてあげることができるのだろうか……?

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閲覧いただきありがとうございました。

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