黒い靄3
実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。
次の日、時子は紫苑と共に再び町に出掛けようとしていた。屋敷の門まで出てきた所で、丁度二人の人物に出くわした。直通と光明である。光明と会う機会は少なかったが、時子は光明の顔を覚えていた。相変わらず、美しい顔をしている。女性と言われても納得しそうだ。
「光明様、お久しぶりですね。お二人共、今日はどうされたのですか」
時子が聞くと、直通がにこやかに答えた。
「何、大した事は無いのだが、時長様が毒を盛られた件について、気になる事があってな。……。鬼四法眼と言ったかな。お前が紹介した陰陽師と話がしたいのだが、どうすれば会えるかな」
時子は、嫌な予感がした。直通達と鬼四を会わせた場合、鬼四の正体を隠し通せるだろうか。実は、牡丹の事を光明に相談しようかと思っていたのだが、今はやめておこう。牡丹が鬼四の正体を口にするとは思えないが、何がきっかけで正体を見破られるかわからない。
「……今度法眼様に会ったら、直通様達に紹介して良いか、聞いてみますね……」
そう誤魔化すしかなかった。そして、直通と光明が去ると、紫苑と共に足早に牛車に乗り込んだ。
しかし、時子は知らなかった。去ったと思われた直通と光明が、物陰からこちらを伺っていた事を。
「で、この子を診てもらえるような陰陽師に心当たりはあるのか?」
神社で、鬼四が時子に聞いた。
「それとなく父に陰陽師の評判を聞いてみたのですが、特に実力が高いと言われているのが……その……加茂光明という私の知り合いの陰陽師でして……。でも、かの方はあなたに興味があるようでして……。牡丹の事を頼んだら、あなたと会わせて欲しいと言われそうで……」
「……ああ……成程……」
「光明様の能力ははっきりとはわかりませんが、あなたの正体が見破られたらと思うと不安で、光明様以外の陰陽師を頼るしかないのかなと……」
「いや、実力と名声が一致するとは限らないが、評判の良い陰陽師から当たっていくのが効率的だろう。俺の事は自分で何とかする。まずはその加茂光明とかいう陰陽師に頼んでみろ」
「……分かりました。くれぐれも、お会いになる際は気を付けて下さい」
二人の話を聞いていた牡丹は、小さく呟いた。
「私の為に、手間を掛けさせて、ごめんなさい……」
それを聞いた時子は、無言で牡丹に近づくと、牡丹の脇腹に手を当てて、くすぐった。
「ひゃ、な、何するんですか!」
「形だけでも笑いなさい。父上が言っていたわ。子供はね、誰でも幸せになる権利があるのよ」
牡丹の瞳が揺らいだ。
「そうだわ、今から鬼ごっこをしましょう。嫌とは言わせないわよ」
「……え?」
時子以外の三人の声が重なった。
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