白と黒の饗宴5
実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。
光明と基家が朱雀門に辿り着くと、直通が紅玉の介抱をしていた。周りの武官も、怪我人の手当てをしたり被害の状況を確認したりして慌ただしそうだ。
「そちらはもういいのか?」
直通が光明達に聞いた。
「ええ、あちらの鬼は倒しました」
紅玉は酷い怪我をしているものの、お互いの無事を確認して四人はほっと胸をなで下ろした。
襲撃の後始末をしていると、時子が駆けて来た。
「皆様、ご無事ですか」
時子は、鬼ヶ原神社で皆の無事を祈っていたが、杠葉から鬼が倒されたと聞いて駆けつけて来たらしい。
「ええ、無事です。紅玉は重傷ですが」
紅玉は痛々しい姿だが、取り敢えず命が無事なようで良かった。
ふと白樹の死体に目を向けた光明が、驚愕して目を見開いた。白樹の手がぴくりと動いたのだ。
「逃げて!まだ生きてる」
光明が言うと同時に、白樹の手から蔓が勢いよく伸び、時子に向かって行った。
「時子!」
紅玉が飛び出し、時子を突き飛ばす。次の瞬間、蔓は紅玉の胸の近くを貫いていた。
「かはっ……」
紅玉は、その場に崩れ落ちた。
「……どうせ死ぬのなら、お前に絶望を与えてから死にたかったが……いつも、思い通りに……行かないな……」
首だけになった白樹はそう言うと、今度こそ動かなくなった。
「紅玉様、紅玉様」
時子が呼びかける。
「おい、光明、紅玉は助かるんだろうな」
直通が光明の方に振り向いた。
「……正直、わかりません。内臓がある場所を二か所も貫かれた上に、蔓には毒があるという事ですから……」
「……嘘だろ……」
意識が朦朧とする中、紅玉の目には涙を浮かべて自分の名を呼ぶ時子が映っていた。時子と過ごした日々が鮮明に思い出される。時子と出会ってから、多くの人と関わるようになった。友人や新しい師とも出会えた。幸せな時間だった。
「……悪い。もう、お前の側にいられないかもしれない……」
「何を言っているんですか。私の事、大切にするって言っていたじゃないですか。だったら、死なないで下さい。ずっと側に、居て下さい」
「……その気持ちに嘘はない。……お前の事、一番大切に思っている……」
そう言って、紅玉は目を閉じた。
「紅玉様、紅玉様……」
時子の声が、夜空に響いていた。
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