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白と黒の饗宴3

実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。

 朱雀門の方では、紅玉が苦戦を強いられていた。白樹が生み出している多数の小鬼は、武官と紅玉の式神が退治しているのでそれ程脅威ではない。しかし同じく白樹が生み出している蔓は厄介だった。

 以前白樹と対峙していた時よりも多数の蔓が手から伸びている上に、蔓は先が鋭く尖っており、刺されると大けがでは済まない可能性がある。既に、紅玉はいくらか切り傷を負っている。


 そして、紅玉は息を切らせながら体の異変を感じていた。呪術で炎を出して蔓を焼き続けているので体力は使うのだが、それにしても体力の消耗が激しすぎる。紅玉はその原因に思い当っていた。あの蔓の先には、毒が含まれているのではないか。

 切り傷を負った際に身体に毒が入ってしまったのだとしたら、かなりまずい。ただでさえ白樹本体に近づく事すら出来ていないのに、体力を削られてしまったら。


 何か打開策はないか考えながら呪符を取り出したその時、紅玉の四肢がそれぞれ蔓で絡め取られた。やはり動きが鈍くなっていたらしい。紅玉は白樹の元に引き寄せられた。白樹は、紅玉に顔を近づけ、穏やかだが有無を言わせない口調で語りかけた。

「いつまでこんな事をしているつもりなのかな?早くこちら側に来い」

「……断る」

「そうか、残念だよ」


 白樹が刀で紅玉を突き刺そうとした時、何者かによって紅玉を絡め取っていた蔓が切られた。紅玉は素早く炎を出す。白樹は炎を避ける為、紅玉から離れた。

「誰かな、邪魔をするのは」

 白樹が、心底不愉快そうな顔でちらりと横を見た。

「お前に名乗る名は無い」

 そう言って呪符を巻き付けた刀を構えたのは、直通だった。


 もう辺りは暗くなっている。偉鑒門では光明、基家、黒曜の攻防が続いていた。光明が呪符を使って水の渦を出し黒曜を拘束し、消されない内に基家が水を凍らせる。しかし、黒曜は氷を壊し、光明に斬りかかる。刃が光明の胸元をかすめたが、何とか避けた。


「これも駄目ですか」

 光明が顔をしかめて言った。

「もう少し耐えろ。まだ勝機はある」

 そう言いながら、間髪入れずに基家が炎を出して黒曜に近づく。黒曜は、扇を持つと思い切り煽った。基家が吹き飛ばされ、塀に激突する。


「勝機?そんなもんどこにあるんだ」

 黒曜はそう言って基家に近づこうとした。

 しかし、黒曜は近づけなかった。身体が動かなかったのだ。よくよく見ると、黒曜の身体を、見えるか見えないかくらいの細い糸が無数に取り巻いていた。そして、その糸は地面に落ちている呪符から伸びているようだった。黒曜は、先程基家が手を滑らせで呪符を落とした事を思い出した。


「まさか、わざと……」

「ああ、俺が得意とする呪術だ。やはり、短時間で大きな威力が出る術よりも、こういうじわじわ相手を追い詰めるような術の方がいいな」

基家は不敵な笑みを浮かべて言った。


 黒曜は糸を千切ろうとするが、全く体が動かない。黒曜の身体から糸に邪気が吸い取られるような感覚すらある。恐らく、黒曜が自由に動いている間にも糸は黒曜の身体を取り巻き、徐々に効果を高めていっていたのだろう。


「……これは、抜け出すのは無理だな」

 黒曜は、あっさりと諦めた。

「せめてもの情けだ。苦しまないように逝かせてやる」

 基家が、黒曜の持っていた刀を取り上げて言った。

「随分優しいんだな」

 黒曜が笑って言った。


「……あなた、女子供を食べないようにしていたでしょう」

 光明が口を挟んだ。

「まだ避難する者がこの門にいる間、あなた扇を使ったり地面にひび割れを起こしたりしなかったでしょう。それは、避難する者を巻き込まない為ですよね」

「気付いていたのか」

「ええ。だからと言って、成人した男を食って良い事にはなりませんが」

「……一つ忠告しておくか。白樹には気を付けろ。あいつの家族に対する執着は異常だ。人を食っていた両親を女の陰陽師に殺されてから、弟を血眼になって探していた。今回俺の襲撃にあいつが付き合ったのも、弟をおびき寄せる目的があったんだろう」

「……御忠告有難うございますと言っておきましょう」


 光明が言うと、基家が呪符を巻き付けた刀を黒曜の首にぴたりと付けた。

「最後に言い残す事は?」

「……見事だった」

「言っただろう。早く家に帰らせてもらうと」

 そう言って、基家は刀を振るった。


 足元には、黒曜の死体が転がっている。基家は、自分の両手を見つめて言った。

「斬る相手が鬼とはいえ、この感触は忘れられそうにないな。しばらく悪夢を見そうだ」

「汚れ仕事を引き受けて下さり、ありがとうございます」

「礼には及ばん。それよりも、朱雀門に戻ろう」

「そうですね。紅玉達が心配です」

 二人は、再び走り出した。


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